「リービング・ラスベガス [各所修正]」WILD CARD ワイルドカード 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
リービング・ラスベガス [各所修正]
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『スナッチ』『バンクジョブ』『コラテラル』……
J・ステイサムという俳優は本当にユニークだ。
自らスタントもこなすキレキレのアクションスターなのに、
アクションほぼ無しの役でも凄みと説得力を発揮できる稀有な役者。
『こいつはただのアクション野郎じゃない。』
と思わずにはいられない存在感がある。
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で、本作である。
まず、『トランスポーター』な彼を期待する方には、本作はまるで楽しめないだろう。
ハデな爆破シーンも無ければカーチェイスも無い。
アクションはチンピラ3人の瞬殺シーン、酒場での乱闘、ダイナー裏での喧嘩、以上。
だが! 僕はこの映画がムチャクチャ気に入った。
アクションではなく、キャラクターや空気感が堪らない。
言うなればこれは、世界一煌びやかで欲まみれな世界で
展開されるフィリップ・マーロウもしくは『探偵物語』。
つまるところの“私立探偵もの” なのだ。
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腕は立つしトコトン義理固いが、ギャンブル狂いな
性格が災いしてベガスから抜け出せない便利屋ニック。
昔の女への義理を果たすために手掛けた仕事のせいで、
彼はマフィアの若頭から命を狙われるハメになる。
だが彼とマフィアとの対決は、物語の主軸ではない。
主軸は、主人公がラスベガスの街と決別できるか否かだ。
無数のライトが燦然と光輝く、美しい夜のベガス。
煙草の煙で薄汚れたように白んで見える昼のベガス。
その街を練り歩く主人公の、スマートな立ち居振舞い、
ウィットに富んだ言葉の数々、皮肉の裏に滲む情の厚さ、
そしてここぞという場面で爆発する攻撃性。
そうしてベガスを最もうまく渡り歩いて見える彼も、
実はその街に取り憑かれてしまっている事が後半で分かる。
絶対的に強い彼だからこそ、その弱い部分も際立って映る。
ブラックジャックの場面といい、冒頭の展開といい、
この主人公はステイサムが演じなければ輝き得ないキャラだとつくづく感じる。
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探偵ものに良くあるよう、周囲を固めるキャラも魅力的だ。
ダイナーの女店員、旧知の仲の娼婦、カジノの
ディーラー、あとハムスター飼ってるオッサン(爆)。
暗黒街の顔役ミッキーとのやり取りなんて
可笑しくてしようが無かった。ビジネスマンとして
一定の距離は保ちつつ、互いに気心の知れてる感じが良い。
ベガス初心者の青年とのやり取りも好き。
軟派な彼が硬派な主人公に諭す、己の弱さを認める強さ。
ラストの行動も、ささやかながらも粋(いき)だった。
オッサンばかりでなく、女優陣も良い。
幾つになっても美人なA・ヘッシュや、
可愛い顔して超したたかで怖いS・ベルガラ。
(剪定バサミはダメだ……剪定バサミはダメだ……)
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他の方のレビューを読む限り、
賛同してくれる人は殆どいないだろうが(爆)、
僕はこの映画がものすごーく好きである。
監督はなんとサイモン・ウェスト! こんな映画が撮れる人だとは思わなかった。
やはりステイサムと組んだ『メカニック』もソリッドな出来の佳作だった記憶。
はっきり言ってこれ、ウェスト監督のキャリアにおける最高作じゃないかしら。
ステイサム単独主演作としても、彼の個性がこれまでで最も存分に発揮された作品だ!
……と、思いますがほらやっぱそこは個人差ありますしまぁ話半分くらいで……(弱腰)。
<2015.02.07鑑賞>
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余談:
レビュータイトルはニコラス・ケイジ主演の名作じゃなくて、
アメリカの人気シンガーソングライター、シェリル・クロウの
唄のイメージ(いちおう同映画の挿入曲だったらしいけど覚えてない)。
彼女も大概カッコいい。