「「分からなさ」との対峙」白河夜船 たーちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
「分からなさ」との対峙
映画に何を求めるのでしょうか。それは、感動を得たいという思いから「エンターテインメント性」を重視することです。さまざまな作品がありますが、そこには必ず「見せたい何か」があるはずです。
分かったふりはしたくありません。申し訳ありませんが、私にはこの作品が何を伝えたいのか分かりませんでした。正直なところ、時間の無駄に感じてしまいました。
出演者に安藤サクラさんや井浦新さんが名を連ねていたため鑑賞しましたが、まるで素人が撮影した学生の8ミリ映画を見せられているような印象を受けました。
安藤さん演じる寺子と井浦さん演じる岩永が、どのように出会い、どのような恋愛をしてきたのかは描かれていません。岩永には植物状態の妻がいて、寺子とは不倫関係にあることは分かりますが、彼の職業などの背景がまったく見えてきません。
寺子も物語の終盤でアルバイトをしている様子が描かれますが、それまでは無職でただ眠っている姿ばかりが映されており、生活の実態が分かりません。ある程度のマンションに住んでいるようですが、岩永が愛人として金銭的支援をしているのでしょうか。妻が植物状態で医療費もかかるはずなのに、愛人にまでお金を渡す余裕があるのか疑問です。とはいえ、そうした金銭のやりとりがあるようにも見えません。
銀行で通帳記入をする場面もありますが、振込元はどこなのでしょうか。親からの仕送りなのでしょうか。登場人物たちに生活感がまったく感じられません。
また、自殺した友人・しおり(谷村美月)についても、添い寝のアルバイトをしていて、かなり良い環境に住んでいるようですが、現実味がなく、この方の生き方もよく分かりませんでした。
安藤さんがすぐに下着姿になって眠ってしまうことや、岩永からの電話がバイブレーションで鳴り、それで目覚める場面が印象的でした。ノーメイク・ノーブラ・パンツ姿で出演されており、一見すると身体を張った熱演のようにも見えますが、ただ眠っている姿を撮影しているだけのようにも感じられました。自然な演技とも言えるのでしょうが、あまりに自然すぎて、ベッドシーンでも色気を感じることはありませんでした。そういった意味では、演技が上手なのかもしれません。
物語の終盤、公園にいる寺子に長い髪の少女が話しかけ、アルバイトを勧める場面があります。この少女は岩永の妻の分身のようにも感じられましたが、唐突すぎて理解が追いつきませんでした。
吉本ばななさんの原作を映画化した企画とのことですが、この脚本と映像センスで映画化されたことに驚いています。鑑賞しているうちに、こちらが「白河夜船」状態になってしまいました。