劇場公開日 2015年11月7日

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劇場版 MOZU : インタビュー

2015年11月2日更新
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西島秀俊VS羽住英一郎監督 “映画バカ”はどっち!?

香港ノワールの傑作「インファナル・アフェア」のリメイク「ダブルフェイス」でテレビドラマ界に風穴を開けた、羽住英一郎監督×西島秀俊のタッグ。あの顔合わせにして、映像化不可能と長年言われてきた逢坂剛氏の公安警察小説“百舌”シリーズをドラマ化した「MOZU」は、大作映画同等のスケールとミステリアスな世界観を実現し、放送直後から大反響を呼んだ。だが、あの物語は終わっていなかったのが、ドラマ版ファンの唯一の心残りだったろう。謎を残したままテレビ放送を終えた傑作が、映画で全てを完結させる。それが「劇場版 MOZU」だ。シリーズを美しく終えたばかりの羽住監督と西島秀俊に話を聞いた。(取材・文/よしひろまさみち、写真/根田拓也)

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この2人の相性の良さは、「ダブルフェイス」でも実証済み。完結編となる本作も、アクション、人間ドラマ、陰謀劇など、極限まで追求した脚本を、2人が表現の限界ギリギリのところで挑戦している。

「『ダブルフェイス』で初めてご一緒したときに、西島さんがいい意味で映画バカということがわかり、共感したんです」と羽住監督。「とにかく映画作りが好きな人なんだ、ということがわかりました。あれは本当に大変なことがたくさんあった作品ですけど、西島さんも含めて映像バカの集まりだから、突きつめて作り込んでいけたんです。それで『MOZU』を始めるにあたり、西島さんが主演ということで、安心して本が書けたんですね。それは“これくらいやってもらっても大丈夫だろう”という安心感(笑)。男が見てかっこいい男、というのを西島さんにやっていただきたかったので、様々な面で加減しないでも彼だったらタフにこなしてくれるだろう、という安心感があったんですね」

それに対して西島は「ほんと、羽住組はみんなおかしいんですよ(笑)」と反撃。「監督を筆頭に、映画作りにかける情熱がありすぎて。僕も映画バカですけど、初めて羽住組の人達と話していたときに“僕は映画となるとおかしくなるから”と言ったら、“いや、僕が一番おかしいです”って言い合いになりました(笑)。そんなスタッフと一緒に仕事することができて、作品がおもしろくないわけがない。実際に一緒に仕事をしてみると、僕がタジタジになるくらいにすごかった。監督のイメージを具現化するために最大の努力をするチーム。危険なほど、厳しい状況であるほど、どんどんテンションが上がっていきますから。いい意味でイカれています(笑)。しかも、香川照之さんをはじめ、共演の皆さんまで、そろいもそろって、その状況に応じちゃいますから(笑)。映画に対する愛を持った人達と一緒に『MOZU』作り上げたことで、これから先、もっと可能性がある、と実感することができました」

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この2人の出会いは、もしかしたら今後の日本映画を変えていく可能性までを生み出したといっても過言ではない。しかも、互いに信頼しあい、いい映画作りにこだわった「MOZU」シリーズを経て、「ずっとやりたかったことができたことで、僕の中での仕事のスタンスも変わってきた」と西島の内面をも変えた。

「『MOZU』は最強の男を描いている作品でもあると思います。それは、僕の演じた倉木だけじゃなく、強すぎるくらい強い男達が戦い合うところが魅力。そこには、彼ら同士のリスペクトも描かれています。互いに強さを認め合いながらも殺し合うという美学。その一部になれたことで、どんどん自分の中の“強い男”像が肉付けされていき、これをもっともっと突き詰めていきたいな、と思うようになりました」

また最大の見どころともいえるアクションシーンは、ドラマ版の時点から、ほぼ放送コードギリギリともいえる過激なものだった。本作では、フィリピンロケを敢行し、さらにスケールアップした。「火薬の量が半端なかったですよ」と西島。「爆発のシーンがいくつかありますが、実体験として熱いんです(笑)。それだけじゃない。カー・スタントも、日本では絶対に撮れない規模でした。安全な撮影をする気を最初から持ち合わせていないクルーですね(笑)」

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それを聞いた羽住監督は「フィリピンのロケは、現地スタッフとのせめぎ合いも大変だったんですよ」とポツリ。「現地スタッフの人数が多かったですし、日本語と英語とタガログ語が飛び交って、どこまでこちらの意図が伝わっているのか分からない現場でね。倉木が村西(阿部力)を呼び出して殴るシーンを撮影した野外マーケットは、大勢の現地エキストラのほかに、見物人もたくさんいたので特に大変でした。カー・スタントに関しても、本番になったら予定と違う動きになることがあったりして、スタントのコントロールがしづらい状況もありました。無事終わってよかったですし、撮る方としてはいい画が撮れたと大満足なわけですが(笑)」

しかも、この劇場版が独特なのは、テレビドラマの劇場版にありがちな「テレビ版の説明」が一切ないこと。ある意味、ムダを全てそぎ落とした構成になっている。

「ドラマのファンはもちろんですが、まだこのシリーズを知らない人でも大丈夫。それはなぜかというと、いきなり事件が起きるから。途中からグッとテレビ版での倉木の問題にシフトしていく物語にはなっているんですけど、そこも謎のひとつとして見てもらえると思います。唯一、テレビ版を見ていないとわからないキャラクターもいますが、その説明を入れるのはMOZUっぽくないと思ったんですね。劇場版で初めて見た人は、ドラマ版も見たくなる、と思いますよ」(羽住監督)

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「テレビシリーズでも、“1話で謎が起きて、それが完結”という従来の連続ドラマをやっていないですよね。謎がちりばめられたMOZUという世界観を楽しむっていう作品。実際の世の中もそうですが、解ける謎もあれば解けない謎もある。劇場版では一見謎が解決されたように見えますが、それだけじゃない。一直線にストーリーが進行するという単純な作品ではなく、混沌とした人間物語というのがMOZUの世界なので。ドラマ版に対する導入として劇場版をご覧いただいて、人間関係や謎を見直す、というのもアリだと思います」(西島)

香川演じる大杉や長谷川博己演じる東、松坂桃李演じる権藤ら、どのキャラクターも謎が多く魅力的なのが、このシリーズの特徴だが、劇場版ではシリーズ最大の謎だったダルマが登場する。演じたのはビートたけしだが、「西島さんと話していて、たけしさんしかいないという結論に」と羽住監督がキャスティングの裏話を語った。

「ドラマ版の撮影で地方滞在しているときから、劇場版をやりたいという話をしていたんです。そして、劇場版ができるなら、きちんとダルマの謎を解明したい、と。それを西島さんと話していて、ダルマを実体として出すならたけしさんしかいないよね、という結論になったんです。たけしさんがダメだったら、ダルマをあまり出さないでいこうかと思ったくらい。それくらいダルマという役は、唯一無二の存在感が必要だったんです。だから、オファーを受けていただけて本当によかったです」(羽住)

「日本史上最大の闇、という役ですからね。ダルマのせいでたくさんの人が死んでしまっているわけですから。だから、この人は別格だ、という人じゃないと演じられないと思います。出演いただくことが決まったときは、僕も夢がかなったという思いでした」(西島)

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