「音楽の完成度。」君が生きた証 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽の完成度。
私の中でメイシーといえば何たって「ER」のモーゲンスターン外科部長。
でっかいお目目が印象に残る名脇役として名を馳せてきた彼がまさか
今作で監督デビューとは驚いたが、内容を観て更に驚くことになった。
大まかなあらすじは読んでいたものの、思わずのけぞる後半の仕掛け。
そこまで普通に観てきた観客の予想を裏切り、深い闇の真相が広がる。
大学で起きた銃乱射事件で息子を失った父親が、息子の遺作ソングを
歌い継ぐといういわば感動物語なのだが、息子の曲に共感した若者が
バンドを組もうと言い彼らは「ラダーレス」という名でヒットを飛ばす。
息子ジョシュの作った曲はどれも完成度が高く、こちらも聴き惚れる。
それをトニー賞を獲得している俳優で弾き語りも巧いB・クラダップと、
A・イェルチンが吹き替えなしの実演で聴かせる。これが本当に巧い!
飛び入りバーのオーナーでメイシーも出ているが、何と妻F・ハフマン、
若手ではS・ゴメス、あらビックリL・フィッシュバーンまで出てくる。
もの凄い顔ぶれ。さすがの交友幅と、音楽に対する寛容性がアリアリと
感じられる秀作。と感想を〆たいところだったのに!あの真相である。
私もそうだったが、ここで子供がいる親の立場がズシンと圧し掛かる。
エリートだったサムが突然ヤサグレた理由はそういうことだったのか!?
と冒頭からの異変に納得はいくも、於かれた心境に納得がいかない。
どう受け取ればいい?どうすればいいの?と、そこからは自問自答だ。
手探りで歌っていたサムの心境は、息子とダブる若者クエンティンへの
愛情を増してゆくが、ここに大きく立ちはだかったのがモラルの問題。
それを由とするかしないかは別として、やっと息子の魂と向き合える
準備ができた父親の叫びは伝わる。ラストの弾き語りに拍手は必要ない。
(初監督でよくこんな作品が作れたものだと感服。さすが元・外科部長!)