「もったいない「走れ」」幕が上がる the gameさんの映画レビュー(感想・評価)
もったいない「走れ」
ももクロファン目線で語ります。
作品の主題は、ももクロがライヴで表現してきたそのものなので、
映画という異種格闘技でありながら、
ももクロ得意の戦い方が出来てました。
恋愛要素などが混ざれば、
こんなにうまくはいかなかったでしょう。
ラストにももクロの最重要楽曲の一つ「走れ」が流れます。
この曲が映画を台無しにした、という意見を耳にします。
この曲は作品の重要な部分で流れるための必然性を持ってます。
しかし、その必然性に気付くきっかけを映画は用意していない。
だから、作品世界に浸っている所に、
突然「アイドル映画」を自覚させるという冷水を浴びせられます。
私はこの映画に、「走れ」が最も相応しい楽曲だと考えます。
それは、「走れ」の歌詞こそ、この映画のストーリーを見事に表現しているからです。
この曲の歌詞は、
当たり前にみれば「片思いを歌ったアイドルソング」の一つです。
しかし、ももクロはライブで繰り返しこの曲を演じ、
歌詞にある想い人の「キミ」を
ファンや、スタッフや、ライブや、歌って踊れるその環境や、
あらゆるものに置き換えられる曲として演じてきました。
そうすることで、ももクロの歌う愛は、
LOVEではなくより広範な愛に昇華してきました。
(故に女性ファンや年配のファンが入りやすかったのです)
そして、物事に全力でぶち当たる美しさを
この曲で表現してきました。
過剰な全力感がももクロの持ち味ですが、
その過剰な全力の答えこそ、歌い出しの
「笑顔が止まらない、踊る心止まらない」
なのです。
きつかろうが、苦しかろうが、でも好きだから関係ない、
という境地の曲です。
ももクロ自身が何度も歌うことで育て上げ、
歌詞すら別な意味に置き換えてしまったこの曲、
残念ながら、その真意は、突然見せられても伝わるものではない。
「モテキ」という映画があります。
主人公はネットで、このももクロの「走れ」を見て、
片思いを伝えようと思い立ちます。
しかし同僚(真木よう子さんが演じてました)から窘められます。
ギャグでコーティングされたこのシーンは伏線となって、
ラスト、主人公が想い人を追うか仕事に戻るか躊躇した瞬間、
真木よう子の「走れ!!」という叫びに後押しされます。
主人公が、仕事に対し情熱をもってぶつかり、現実に結果を見せ、
周囲を後押しさせるだけの頑張りがそこにありました。
主人公は本当にここまで全力で走ってきたからこそ、
同僚から、「走れ」と応援されるわけです。
曲の真意を汲んで映画に盛り込むのは押し付けがましくもあり、
表現の仕方によっては不快なものかもしれません。
しかし、モテキは「走れ」の真意をちゃんと汲んで
映画とリンクさせていました。
「幕があがる」では、
歌詞で言うキミは「演劇」でしょう。
私は曲を聞きながら、
無理やり部長を押し付けられ、そこで抱負を語ったシーンと、
「走れ」で部長演じる百田さんの最初のソロパートが
見事にリンクすることに気づきました。
そこからは、曲が映画を振り返らせ、涙があふれました。
「走れ」は、キミを演劇に置き換えるだけで、
「幕が上がる」を思い返すことが出来る構造になっています。
「走れ」はももクロの最重要楽曲の一つであり、
シングルのカップリング曲でありながら紅白で歌われ、
「モテキ」での扱われ方も前述のとおり。
この曲は語り尽くせない多くの物語を背負っています。
幕が上がるでは、このことと初見の観客とのギャップを埋める、
なんらかの方法が必要だったと感じます。
例えば、さおとユッコが一緒のベッドで寝るシーンで、
二人は演劇に対する思いを分かち合うわけですから、
演劇に恋をしている、みたいな露骨な言い方はないにしても、
それに近い表現がありえたのではないか、と思います。
幕が上がるをご覧になった方には、
「走れ」の歌詞の「キミ」を
「演劇」に置き換えて聞くことをお薦めします。
映画のために書き起こしたのか、
と思うくらいに見事にハマります。
ももクロは恋愛よりも更に普遍的なテーマを、
それこそ歌って踊って表現してきた稀有なタレントです。
この映画に限らず、「走れ」に限らず、
恋愛要素を薄めることで別な価値観を提示してきました。
幕が上がるという作品のテーマは、
すでにももクロの得意分野でもあったわけです。
最後に、あのシーンで「走れ」が流れるのはありとして、
歌って踊るのではなく、回想など別な映像の方が、
映画としてはバランスを保てたはずです。
しかし、ももクロのあの「走れ」は、
ライブでは見れない、でも最高の演技でした。
モテキでも使われたTIFでの「走れ」に匹敵する、
早見あかり脱退以降でのベストアクトだったと思います。
ももクロファンとしては最高なのですが、
映画の価値は損なわれたのかもしれません。
本当にもったいない「走れ」でした。