「宇宙人侵略/女子高生恋愛モノを隠れ蓑にしたアメリカ軍批判」フィフス・ウェイブ mtkymさんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙人侵略/女子高生恋愛モノを隠れ蓑にしたアメリカ軍批判
物語は、宇宙人が地球侵略のため、人間を抹殺しようと、攻撃を仕掛けてくるところから始まり、その中でクロエ・グレース・モレッツ演じる主人公の女子高生キャシーが、恋愛や兄弟愛で結び付つける人間関係を巡って展開する。
宇宙人の侵略や女子高生の恋愛などで構成されるストーリーは、一見すると単純すぎる。
そのため、この一見単純なストーリー展開に対して、批判的なコメントが多いのもある程度理解はできる。
しかし、現在のアメリカ(あるいは世界)が置かれている情勢を踏まえれば、単純な宇宙人対戦モノ、女子高生恋愛モノではないことがわかるはずだ。
「アザーズ」が、人間の子供たちの脳内に簡単なチップを埋め込むだけで、敵と味方を区別させ、敵をせん滅させようとさせる様は、今まさにアメリカ政府が若者たちに行っていることではないか。
悪の枢軸と味方を、単純に区別して、多くの若者たちを戦場へと送り出し、人殺しに加担させている。
今まさに、アメリカが世界各地で行っている戦争に対する批判が、暗にこの映画には込められていると考えるべきだろう。
映画製作者のメッセージは、そのような単純に「敵」「味方」の区別して恐ろしい殺戮に加担するのではなく、キャシーがそうするように、弟や恋人などにあるような「愛」によって人々がむすびつくべきだ、ということではないか。
また、日本のマスメディアでも、同じように嫌韓、反中、反北朝鮮をあおる情報が垂れ流されている。
そして、「アザーズ」が人間の子供たちの脳内にチップを埋め込むだけで、敵と味方を区別してしまったように、それらの情報に浴びた若者たちは、例えばネット右翼という形で、周辺国への敵意を抱き始めてしまっているわけである。
さらに、日本では、原発事故後、マスメディアで反原発を掲げるタレントの出演を控えさせるなど、小さな抑圧を繰り返し加える事で、反原発について語ることをタブーにしてしまった。
このような状況を踏まえたとき、仮に、日本が、アメリカのように正に戦争に参加している状況で、このような戦争批判をテーマにした映画をつくりだすことはできるのだろうか?
現在行われている反原発に対する言論統制を踏まえると、原発以上にシビアな「戦争」というテーマにたいして批判を許すだけの懐はほとんどないように思える。
このような日本の貧しい状況と比較して、宇宙人侵略、女子高生恋愛という一見陳腐なストーリー展開を隠れ蓑にしながらも、アメリカ政府や軍を批判する映画を作りだしたアメリカに未だ存在する文化的な良識は、注目に値するんじゃないか。
とはいえ、筋肉ムキムキの男の裸をみて、始まる恋心や、広い基地内でいとも簡単にばったり同級生に出会えてしまうテレビドラマ並みのストーリー展開は、確かに苦笑もの。
アメリカ軍批判という大きなテーマはいいとして、それとは別にもう少し細部は工夫はできたんじゃないかと思う。