「戦後70年。でも(日本人の)WGIP洗脳はどうやら解けてないようで残念です。」杉原千畝 スギハラチウネ さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
戦後70年。でも(日本人の)WGIP洗脳はどうやら解けてないようで残念です。
現在劇場公開中ですが、歴史上の人物だからネタバレもないっしょ?と思います。
やや、がっつり目に書きます。宜しくお願いいたします。
数年前に、"歴史上の「惚れてまう男」を描いた書籍を10作品紹介する"という仕事を受けました。
その中で、杉原千畝氏の奥様:幸子さんが書かれた、『六千人の命のビザ』を紹介させて頂きました。
作者が奥様だけあり、立派な"夫""父"として描かれ、その時代の緊迫感や、それこそ男の色気みたいなのは感じませんでした。そこがちょっと残念だったのです。
が、本作はエンタメ度がプラスされていますので、杉原氏、やばいです。
いや、唐沢さん、すげ。色気があります!
ボンドなんか目じゃねー!あいつ、やった…、あ、失礼!親密な関係にあった女性を助けないし。
走り方おかしいし(腿上げすぎだし)。
体硬そうだし。
ドヤ顔笑えるし。
でも、久々に背中に縋りたい!と思った男性に出会えました。
私の中の"2015年いい男ランキング"ダントツ1位は、唐沢さん演じる杉原千畝氏です!
戦後70年のこの年、いくつかの第二次世界大戦をテーマにした映画が作成されました。
『この国の空』
『日本のいちばん長い日』リメイク
『野火』リメイク
『あかあさんの木』
『息子と暮らせば』
などなど。すみません。全部観ていません。
しかし、戦争の定義すら変わってしまった現代では、果たして過去作品のリメイク、今までの戦争映画と同じ切り口の(WGIP的な)映画が、現代において「反戦映画」となり得るのか疑問でした。
戦争の対義語は"平和"です。
しかし私は、戦争の対義語は"外交"そして、特に現在では"安全"だと思っています。
本作は"外交"がいかに大事か、世界情勢を見極め、時に他国と協調し、時に距離を取り、国としてどこに立つか?が、どれだけ大事なのかがテーマだと思います。
しかしどこに立っても、決して世界の中で孤立してはいけないです。
でもネット上では、WGIP的な映画を本作にも求める方が多いようで、洗脳って怖いなぁーって思いました。
さて、本作は、第二次世界大戦勃発間近の緊迫した世界情勢の中で、日本軍に乗っ取られた外務省の目をかいくぐり、ドイツ軍のゲシュタポに脅されながらも、良心に従ってユダヤ人に多くのヴィザを発行した、杉原千畝氏の半生の映画化です。
日本のシンドラーと呼ばれる杉原氏ですが、ちょっと違うと思うんです。
映画の中では、「お前は最低の外交官だったが、最高の友人だった」と言われるシーンがあります。
いやいや、杉原氏は最高の外交官だったと思います。
いや、最高の国際政治学者だったと言っても過言ではありません。
日本がドイツと同盟を組むのに反対し、世界という名の車輪が回ってヒットラーが下になる時が来る。国力のない国が孤立し、そして調子にのるとどうなるか。日本軍はアメリカに戦争を仕掛け、今までにないくらい打ちのめされると読んでいました。国際情勢を読んで、今後きっと車輪の上になる方達にヴィザを発行したのだと思います。
杉原氏には、優しさと同時に冷静な目を感じました。
そこ、シンドラーさんとは大きく違います。
いくつかの印象的な台詞があります。
その一つは、"世界は車輪。回り続けている"という箇所です。
今は上になってる国が、下になる。
国力のない国が諸外国並に国際社会を生き残っていく為には、車輪の回りを見極め、某国との同盟関係、周辺諸国との関係、そして何より世界の常識を踏まえて、その都度ベターな判断をしていかなくてはいけない。
世界は回り続けているが、果たして日本はそれを見極めているか?
孤立してはいないか?あの時のように。
そして、もう一つ。
杉原氏が帰宅して日本を憂いて眉間に皺を寄せている時、奥様は明日のパーティに着ていくドレスをのほほーんと選んでいます。
どんなに緊迫した空気の中でも、奥様だけは美しく柔らかく微笑んでいます。なんて浮き世離れした方!しかしそんな奥様を、杉原氏は愛おしそうに「君は変わらないな」と安堵のため息と共に抱きしめるんです。
どんどん変わって行く世界で、奥様だけは変わらない。
そこに男性は、ほっとするんでしょうか。
こんな奥さんでいたいなぁ。あ、無理だけど(笑)
単なる感動秘話ではなく、テーマを噛み締めて貰いたい作品でした。