「皮肉たっぷりの大人の寓話」イントゥ・ザ・ウッズ REXさんの映画レビュー(感想・評価)
皮肉たっぷりの大人の寓話
皮肉たっぷりの大人の寓話。
「シンデレラ+赤ずきん+ジャックと豆の木+ラプンツェル」という童話を、うま~くミックス。
主軸となるパン屋の夫婦。「子どもができない」という呪いは、主人の父親が魔女の庭から野菜(ジャックの豆の木の魔法の豆)を盗んだからだった。
その呪いを解いてやる条件として、魔女は4つの物を二人に集めさせる。
それらが上記の童話の主人公達にまつわる物なのだが、それは魔女自身にかけられた呪いを解くためのアイテムでもあった。
彼女も「畑から野菜を盗まれた罪」によって、自分の母に呪いをかけられていたのだ。
パン屋の父が豆を盗む→娘を魔女に誘拐される→娘はラプンツェルと名付けられ幽閉→息子は何も知らず成長→魔女から呪いをかけられていることを知る→アイテムを取りに→その頃各々の目的を持って、シンデレラ、赤ずきん、ジャックが森を通りかかる。→赤ずきんの「赤いずきん」、ジャックの「白い雌牛」、シンデレラの「黄金の靴」。それらがパン屋が集めるものだった→赤ずきんのおばあさんを助け、逃げるシンデレラの靴を追い、ジャックに「魔法の豆」を渡すパン屋の二人。
さすが元はブロードウェイの脚本、四つの話をうまくつなぎ合わせていると感心した。
ちなみにラプンツェルの王子とシンデレラの王子は兄弟という設定にされていた。
一人の他愛ない行いによって、多数の人間が不幸に陥る負の連鎖。
互いの疑心暗鬼と不信から起こる、ジャックの巨人殺人事件。怒った巨人の妻がジャックを探しに人間界で大暴れするのだが、そこでやっと皆の心が一つになる。
魔女自身が呪いをかけられていた被害者だということと、彼女はラプンツェルを彼女なりに愛していたことから、少し同情を引いた。
ジャックは母親を亡くし、赤ずきんもおばあさんを亡くし、シンデレラは偽りの愛から逃げ、パン屋の女房は浮気の罪から巨人に殺された。
魔女は自暴自棄になって自ら呪われた。
皆何か罰せられているが、赤ん坊の時から被害者で落ち度のないラプンツェルだけが、お伽話どおり真実の愛を見つけた(と思いたい)。
なんだかんだ何が言いたかったのかとも思うが、結局は夢ばかり見て他力本願じゃだめってことなのかなと。
皆が力を合わせて、残されたパン屋の赤ちゃんと村(国?)を再建していくことを匂わせて、物語は終わる。
個人的にシンデレラの継母や血のつながらない姉たちが、グリムの初版どおりに「足を切ってまでガラスの靴に押し込めた」描写が好き。彼女らのゴシック風パンクっぽい衣装も好きだ。
画全体を覆う「不気味さ」もグリム童話のえぐさや不穏さを醸し出していて好みです。
しかし浮気してしまう王子さまよりも先に、「王子の正体見たり」と既に森に逃げ込んでいるシンデレラ、ちょっと気が早すぎない?