「「どうにもならなさ」を抱えた苦しみが繰り返し伝わってくる一作」Mommy マミー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
「どうにもならなさ」を抱えた苦しみが繰り返し伝わってくる一作
まず25歳で本作を完成させたグザヴィエ・ドラン監督の才能には驚きのひとこと。
社会的に弱い立場の人々が、十分な社会的支援を受けることができず追い込まれていく…という物語は、ケン・ローチ監督の『家族を想うとき』(2019)などの社会的問題を扱った作品では決して珍しくない筋書きだけど、本作はそこにさらに、画面の枠(フレーミング)の操作という手法を取り入れつつ、母ダイアン(アンヌ・ドリバル)と息子スティーブ(アントワーヌ・オリビエ・ピロン)、そして彼らの隣人カイラ(スザンヌ・クレマン)の姿を描いていきます。
鑑賞してすぐに、本作が古い映画を思わせるような横幅の狭い画面であることに気が付くでしょう。この比率はおそらくスタンダードサイズと呼ばれる比率なんだけど、ドラン監督はこの比率を、苦境に陥っているため周囲が見えなくなった彼らの心理と明らかに重ね合わせています。
作中では大きく二度、この画面比率が変化する場面が訪れるので、その時の文脈がどうだったか、そして観客である自らの心象がどのように変化するのか、ぜひとも注意してみてほしいところ。
なお、画面フォーマットを心理描写に活用するという手法は、後のトレイ・エドワード・シュルツ監督が『WAVES ウェイブス』(2019)でも用いているので、もしかしてシュルツ監督は本作に影響を受けたのかも、と思いました。テーマ的にも重なりあう部分があるので、本作でドラン監督の作劇に興味を持った人は、『WAVES』からも刺激を受けるかも!
本作のクライマックス近くの展開、このままエンドクレジットにいって欲しい…と祈りながら観た映画も久しぶり。
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