「表現が素晴らしい」モアナと伝説の海 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
表現が素晴らしい
吹き替え版を鑑賞。ミュージカル仕立てというところは「アナ雪」を彷彿とさせるが,率直に言って曲の水準や曲数はやや及んでいないという印象であった。複数いる作曲者には,アナ雪と被っている人が一人もいなかったので,音楽的な関連は全くないようだった。ディズニーは,アナ雪と同じ戦略で,予告編や TV CM での刷り込みに懸命だが,効果の方はイマイチという気がする。
しかし,映像の素晴らしさには度肝を抜かれた。アナ雪で最も感心したのは雪の質感であったが,本作では何より人物の頭髪の表現に目を奪われた。CG では,長い頭髪の表現は最も苦手とするところであり,アナもエルサも髪を束ねていたのは,髪の毛の表現に作業時間を割かれるのを減少させるためだったのだが,本作では,主人公はもとより,相手役のマウイまでが縮れた長髪で,二人とも,多くの場面で髪を束ねずに行動していて,髪の質感や動きが,キャラクターの動きが静かな場合も激しい場合も見事に描かれていたのには本当に関心した。もちろん,肝心な海の表現も息をのむほどであったが,個人的には髪の毛の表現に圧倒されて,そればかりを見てしまっていた。
脚本は,よく頑張っていたと思うが,モアナの父親は彼女の行動に反対するためだけにいるような違和感があるなど,やや不満なところもあった。あのまま,あの島から出ずに耐えたとしても,早晩悲劇的な結末を迎えることは目に見えていたはずである。しかし,映画の前半で貼った伏線がいくつもあり,それが後半で見事に回収されていく様は非常に爽快であった。例えば,最初の方で,幼い頃のモアナが孵ったばかりの亀の子を海まで無事に送り届ける場面があるが,両手に抱えて海まで運べば簡単そうなのに,彼女はそうせず,自分で歩く亀の上に傘をさして強い日光を避け,天敵の鳥類を追い払うという行動を見せる。これは,実は後半で海がモアナに対して示す態度に通じていて,「海に選ばれた」という割に,あまり海がモアナを助けてくれないという印象を受けるのだが,そうした姿勢を予め示しているらしいといったことである。話の全体像は,見事な冒険物語になっていた。
吹き替えを行なった日本人の声優はそれぞれ見事であった。モアナ役はオーディションで選ばれた無名の人だそうだが,実に見事な歌いぷりであった。今朝のテレビ番組で,アメリカ版の声優さんと二人でメインの歌をアカペラで歌って聴かせてくれたのだが,全く音程のブレなどがなく,オリジナルのアメリカ人歌手と全く引けを取らない実力は見事なものであった。マウイ役の尾上松也も歌の上手さにビックリさせられた。モアナの祖母役を演じた夏木マリも見事であった。
演出には,かなりジブリの影響が垣間見えた。暴走するカオナシや,ナウシカの巨神兵を彷彿とさせるシーンや,もののけ姫のシシ神を思わせるようなシーンもあったが,パクりというよりはリスペクトと見るべきだろうと思った。リアリティの演出という面では文句の付け所がなかった。エンドタイトル後におまけシーンがあるので,最後まで席を立たないようにとお薦めしたい。客席には子供の姿も多く,決して静かに見られる環境でなかったのがまた残念であった。
(映像5+脚本3+役者5+音楽4+演出5)×4= 88 点。