「失感情と承認欲求は社会の歪みと相まって狂気を成す」ナイトクローラー lingrenさんの映画レビュー(感想・評価)
失感情と承認欲求は社会の歪みと相まって狂気を成す
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サイコパスが主人公の映画だが、主演男優の演技の素晴らしさにより、その思考や感情が非常に生々しく感じられる。また本来は忌むべき主人公の行動に対しても、演技の自然さや物語の流れの見事さゆえに、不快感や恐怖を感じずにスムーズに受け入れることが出来る。物語として面白いだけでなく、非常に示唆に富む作品。
一般的にはサイコパス=反社会性という認識だが、彼らがみなすべからく反社会的行動を行うわけではなく、持って生まれた失感情的な性質に、後天的な環境因が加わることで反社会性が顕在化する。
高い知性と行動力を持ちながら社会の中で役割を得られず不遇をかこっている主人公が、人々の持つ歪んだ欲望や社会が孕む病理と相互作用することで起こる悲劇の連続に、しかし我々はさほど違和感を感じないのではないだろうか。
オウム真理教のようなカルトや自称イスラム国のようなテロ組織に、能力ある若者が与する構図と、本作の主人公が犯罪行為に手を染めていく過程は重なって見えるように思われるからだ。
もちろん彼ほどのサイコパスは、仮に犯罪集団に加担する者たちの中でも多くはないだろう。しかし社会に組み入れられず、社会的存在としての自己をつかめずに喘ぐ若者が、怒りや恨み、あるいは承認欲求に支配されることで感情的に盲目となり、何者かの欲望に取り込まれて狂気を働くという現象は、まさしく本作のような形で実現しているのではないだろうか。
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