「承認欲求の塊」ナイトクローラー よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
承認欲求の塊
主人公は低学歴でまともな就職口を見つけられずにいる。ただし彼は、ビジネススクールや自己啓発書で勉強をしたかのような、人間観や処世術を滑らかに語り、他人の仕事の肝を的確に把握する勤勉で賢い人物である。
このような人物に与えられる物語は成功譚の他に考えられないだろう。そして本作もその鉄則からは寸分もはみ出てはいない。ただし、多くの観客のモラルに反する手段を積み重ねて、彼は成功を手にしていくのだ。
泥棒をして手に入れた品物を売り飛ばしている相手に、自分が勤勉で良く働くから雇ってもらえないかと売り込むのだが、その相手は「泥棒やってたやつは雇わない。」と当然のように断る。承服しかねたような顔をした主人公の男に、感情移入できる観客はいるはずもなく、早々にこの男への共感を禁じられたことを彼らは悟ることになる。
凄惨な事故の映像を売り込むテレビ局の人間相手に金額を交渉する彼は、金銭欲からというよりも自分の存在感や自分の仕事やの評価を高めたいことがはっきりしている。
年増の番組プロデューサーに、ビジネスの交換条件として男女の関係を迫ることも、自分の優位を相手に認めさせ、交渉のペースを作っているのは自分のほうであることを自他ともに感じることが大切なのだ。一昔前なら、この関係はプロデューサーが男で、上昇志向の強い女がそいつと寝るというのが物語の常套句ではなかっただろうか。このジェンダーとセックスのねじれが、物語の現代性を象徴していると同時に、この主人公の男のやっていることが少し前なら、「女の腐った」(この言葉自体が女性そのものを蔑視していることも含めて)のがすることだということを観客に示している。
このように映画は、この主人公への観客の共感を徹底的に排除すべくこの人物像を提示している。その試みが非常に上手くいっている。
我々が生きる社会の過度の承認欲求の根源に迫ると言って良い人物造形に戦慄を感じる。