「文句をひとつ」バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) ko_itiさんの映画レビュー(感想・評価)
文句をひとつ
『ゼロ・グラビティ』が凄かったのは宇宙を舞台にしているのに描くのは一人の女性の「生きたい」という単純な感情を本来なら見世物であるVFXを駆使して表現したことで、この作品もリーガンの「復活したい」気持ちを中心に描いており小説に例えるなら心象を描いた日本でいうなら私小説に近いつくりだ。だから冒頭の隕石も浮いているも街角で怪獣と戦闘があるのも空を飛ぶのもリーガンの心象、心の中を描いているからおそらくそのためのノーカット(風)演出なのだろう。
「復活したい」リーガンは自分がいるブロードウェイがリーガンと同じ人間達がたくさんいる場所であることを知りショックをうける。辛口の批評家も浮浪者もおそらくかつては舞台俳優を目指してしていたのだろう。そんなところにリーガンは飛び込んだのだ。
心の中のバードマンはささやく「こんなところやめてはまたヒーローやろうぜ。人が観たいのは中身の無いハデな見せ場なんだ」
そのささやきにリーガンは気がつく、そしてクライマックスでまさしく「人が観たかったものをみせる」のだ。バードマンの目的とはちがう方法でだ。
これがアカデミー賞をとるのはよくわかる。演劇人にコンプレックスを感じているかもしれない映画人ならこのラストを支持するだろう。演劇よりも映画の“勝利”だからだ。
ただ、ひとつ不満がある。リーガンは今の表現でいうと『エクスペンダブルズ』シリーズに出そうな設定だが、演じているマイケル・キートンはけっして下手な演技をしない役者さんだ(だから、ライバルに彼よりも演技が上手いエドワード・ノートンを入れたのかもしれない)だから、そこにどうしても違和感を感じてしまい個人的にはなにかしこりが残ってしまった。
せめて彼に主演男優賞をあげろよ!