「意味のある逡巡と思いたい。」アメリカン・スナイパー だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
意味のある逡巡と思いたい。
まずどうでもいい話から。
中盤で、クリスが車屋にいてる時に声をかけてきた退役軍人役の人(義足の人)が、ジョナサン・グロフでした!こんなところでお目にかかれるなんて!と、感激しました。
(ジョナサン・グロフはドラマgleeのジェシー役の人です。彼の歌うボヘミアンラプソディは鳥肌ものです。)
以上、個人的な喜び発見でした。すみません。
✳︎閑話休題✳︎
人間は三種類に分けられる。羊、狼、番犬。お前は狼から羊を守る番犬たれ。このように父に育てられたクリス・カイルが主人公です。
生まれはテキサス。保守的な地域です。
クリスも愛国心の強い、カウボーイに育ちました。
テレビで見たアメリカ大使館爆撃事件から祖国を守る軍人を志します。
厳しい訓練の末にイラクへ派遣され狙撃手として敵を撃って撃って撃って撃って…その功績からアメリカの英雄となりますが、一方でその体験によって患った、強烈なPTSDに苦しんだ、というお話です。
揺るぎない愛国心というやつがない(理解できない)私は、クリスへの共感は湧きません。
湧かないながら、クリスの人間性を否定できないという気持ちになりました。
史上最高の祖国!とか、蛮人から仲間を守る!とか、わたしの苦手な思想が中核にある人物ながら、その「蛮人」を撃つことで心身を蝕まれていく二面性に説得力を感じたからだと思います。
妻のタヤの心配のほうに共感するかなと思いましたが、そうでもなかったのです。
確かに妊娠中の電話越しで夫が戦闘に巻き込まれたなんて、気の毒すぎて胸がつぶれそうではありました。
が、彼女のいっていることが、対岸の火事だからそう言えるのでは?と思えてしまいました。
夫の殺人行為と精神の崩壊に守られて、あなたと子供が生きていられるのに、と、心の端っこで思ってしまいました。
でも、タヤの言うことが正論でもあるし、私だってそう言うよな、とも思ったりもしました。
私自身への非難も込めて思うのですが、人殺しになる覚悟がない人が、誰かがやってくれた殺人を経た、幸せだの平和だのを享受しておいて、戦争なんてだめよと言い切るのはおかしいように感じます。
もちろん戦争がないほうが、いいのは明らかですが、人は意見の違う人を殺して殺して殺して、歴史を作ってきたのです。
それ以外のやり方を人はまだ発見できていないのに、戦争反対なんてどうして言えるのか、いう権利がないのでは?と、思ってしまいます。
でもそうでない道を目指すのもまた正しいと思います。人を殺し続けてきた歴史が生んだ悲劇を後の世では繰り返したくない、という願いは、正しいはずだとおもいます。
でも、でも、でも、と、相反する考えが渦巻き、自分の意見をまとめられません。
戦争と平和を思う時、このようにいつも逡巡し、では何をすればいいのかが、なにも見えないまま、日常に流されるのが、パターンです。
進歩がないなぁと情けなくもありますが、考えないことよりましだと言い聞かせて、これからもうじうじ考えるつもりです。
映画の話に戻ります。
クリスは遂にアラブ側の敏腕狙撃手を撃った後、除隊します。
すっかり心を病んだクリスは医者にかかったり、退役軍人の自助グループに参加したりしながら、PTSDから立ち直ったようです。
この映画の不満は、退役後の葛藤に尺が取られなかったことです。
そこが過酷な戦闘を描くよりも重要なのでは?と思いました。
でも踏み込めない理由があったのかもなぁ、と、無音のエンドロールの間にぼんやりと考えました。
そこに踏み込むと、傷つきすぎる人が多いのかもなぁと。
アメリカ側からの視点しか出てきていませんが、アメリカの万歳!アラブは敵!といった、プロパガンダ的なものは感じず、そういった意味での作り手がしゃしゃり出てくる映画にはなっていないと思います。良作です。
個人的には、音楽で悲しみや恐ろしさなどの感情を揺さぶってこない演出がとてもありがたかったです。イーストウッドさんグッジョブです。
過酷な映像と感情を揺さぶる音楽のコンボで攻めてくる映画は、心臓に大変悪く、苦手なもので。
蛇足ですが、汚い言葉をいう人物が多いなと思いました。訓練中の上官の言葉が特に…そこはげっそりしました。