「PTSD」アメリカン・スナイパー harukitaさんの映画レビュー(感想・評価)
PTSD
音楽の無いエンドクレジット…。
観賞後のなんとも言えない重たさ…。
本作はエンターテイメントを求める人には不向きな作品だろう。
そこにあるのは戦争によって心が壊されていく人間の姿だから…。
音楽の代わりに観客が聞かされるのは戦場に鳴り響く銃声に次ぐ銃声だ。
伝説の狙撃手として英雄視されている主人公の心が戦場での体験によって少しずつ破壊していく様を観客もまた疑似体験させられる。
なんとも重い重い作品だ。
イーストウッド監督らしい作品と言えるだろう。
過去作品で提議してきたことを全部乗せたような作品だと感じた。
例えば『許されざる者』では、正義ってなんだ?正義だからって人を殺しても良いのか?ということが提示されていたと思うし、『父親たちの星条旗』では“戦争に英雄なんていないのだ“と言うことを、そして同監督の集大成とも言われた『グラン・トリノ』でのPTSDの問題など、過去作それぞれに込めたテーマの全てが本作には詰まっている気がする。
年齢的にも監督としてある意味もう集大成に入っているのかも知れない。
そして迎える衝撃のラストは事実だけに考えさせられてしまう。
この間違った戦争のはずのイラク戦争で、英雄とされた主人公もまたこの戦争の犠牲者なのだ。
本当の敵、本当に悪いのは誰なんだ?
劇中蛮人呼ばわりされていたイラクの人たちが悪いとは私にはとても思えなかった…。
本作はエンターテイメントとしては楽しいと言える映画ではない。
なので☆は3つ半までにしておいたが、もし本作を《戦争を考える》と言う括りの中で考えたなら☆は5つだったろう。
私はこれこそが“戦争映画“であり“反戦映画“なのではないかと思う。
ただし、良く考え、解釈することが大切な映画でもある。