劇場公開日 2015年2月21日

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「戦争と家族」アメリカン・スナイパー HammondJ3さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0戦争と家族

2015年2月22日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

最初に言っておきますと、この作品は映画館で観るのがオススメです。骨太で腹にずっしりと来るアクションシーン、そして、あのエンドロール、ぜひ大迫力の画面で体験してもらいたいと思います。

この作品で物議を醸しているのはイラク戦争の大義名分なのですが、クリント・イーストウッド監督は、イラク戦争に対する自身の考えをここでは出そうとしていないという風に思えました。ただただ、クリス・カイルという一人の軍人とその家族、戦友にまつわる事実を淡々と描いてみせた、そんな印象を受けます。

戦争に参加するか否か、それを賞賛するか否かは、未だ個人の自由だと僕は思います。しかし、この作品でイーストウッドは、戦争によって人々の生活やお互いの関係性、自意識などが変わっていく、もしくは崩れ去っていく様子を否応なしに見せつけ、もう一度、我々は何と戦うのか、なぜ戦うのかを、観客に問いつけます。

そしてもうひとつ思ったのは、クリス・カイルは一体誰のために、戦場へ何度も行かねばならなかったのか?これはもちろん本人の意志で戦地へ赴いているのですが、その理由ははっきりと言葉では出てきていません。家族のためなのか、国家のためなのか、戦友のためか、神のためか、自分のためか、クリス本人も最後は分からなくなっていたのではないでしょうか。

観終わった後思い出したのが、数年前にWOWOWで放映された海外ドラマ「ザ・パシフィック」です。スティーブン・スピルバーグとトム・ハンクスが手がけた、太平洋戦争において、日本軍と戦う米軍兵の姿を、兵員個人の視点から描かれるのですが、この作品においても主人公の青年は、退役後にPTSDに蝕まれていく様子が描かれています。この青年も実在の人物で、心臓に疾患を持ちながらも、兵として志願します。そして、数々の激戦を生き抜く中で、静かに精神のバランスを崩していきます。戦闘シーンも、かなりリアルでヘビーなので、興味ある方は観てみると良いと思います。

イーストウッドもスピルバーグも描こうとした戦争の「本質」は同じなのかもしれません。それは言葉にするのは難しいですが、彼らはそれを、映画という形で表してきたに違いありません。

そういえば、今年度のアカデミー短編ドキュメンタリー賞に、"Crisis Hotline: Veterans Press 1"が選ばれました。偶然なのか分かりませんが、退役軍人たちのためのカウンセリング・コールセンターを追った作品のようです。こちらもぜひ見てみたいです。

HammondJ3