「クリス・カイル氏の自叙伝”アメリカン・スナイパー”を原作とした作品...」アメリカン・スナイパー kenMaxさんの映画レビュー(感想・評価)
クリス・カイル氏の自叙伝”アメリカン・スナイパー”を原作とした作品...
クリス・カイル氏の自叙伝”アメリカン・スナイパー”を原作とした作品です。
アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズの狙撃手として、イラク戦争において160人もの敵を射殺し、ラマーディーの悪魔と呼ばれた伝説の人物。
しかし、その心は戦争に囚われ、幸せだったはずの家庭に馴染めず、人として何かを失っていきます。
退役後は、自身の心と家族を少しずつ取り戻し、同じ境遇の兵士達の手助けに尽力するようになります。
現役兵の任務と心情、退役後の人生をリアルに描いた作品です。
原作、脚本、監督、俳優、編集、映像、美術、音響、撮影。どれを取ってもこれといったスキの無い作りです。
全体的に高い完成度で仕上がっていて、最後まで集中して観る事が出来ます。
特に音の使い方が上手いと感じました。
冒頭の戦車の走行音が徐々に高まっていく部分などは、観客の心にも何かザワつきのようなものを感じさせる上手い使い方だと思います。
そういった工夫というか使い方や使い所の上手さは、秀逸と言えます。
単純にBGMを流して感情を煽るような陳腐な使い方をせず、的確な音響でリアリティを追求していました。
主演のブラッドリー・クーパーの演技も注目です。
主人公がカウボーイをしていた時、兵士訓練、戦場、家庭と変化する状況の中、クリス・カイルという実在の人物の心情をしっかりと伝えています。
映像は出来るだけ現実に基づいた形で作られている印象があるので、派手さはありません。
そもそも狙撃手ですし、基本的に民家を索敵、捜索しながら地味に進んで行きます。
ですが、それがリアリティとなり、観る者の現実と戦場の現実が重なっていきます。
戦場では狙撃手は絶対に相手に捕まってはいけないと聞いたことがあります。
どの戦場においても捕まった場合、捕虜になることは稀で確実に殺さるためです(理由は検索してください)。
そんな立場の人間が自ら4回も戦場に赴くというのは、兵士と言えども過酷な現実だと思います。
作中では実際に、4回目の召集の際には何人かの隊員が辞退したという話も出てきます。
日本の戦争映画などを観ていると、一度戦争に行ったら終わるまでは帰れないというイメージがありますが、
現代では一つの作戦が終わると帰国して家族と過ごせますし、戦地でも衛星電話で家族と話せます(知ったときは驚きました)。
そのため、戦地と家族との生活のギャップが色濃く描かれています。
個人的には、この往復は精神的にキツイような気がして、兵士がPTSDを患う一つの要因になっているのではないかと感じました。
実在のヒーローという表現をしていますが、それはアメリカ側の言っている事であり、単なる人殺しだという見方もあると思います。
そのためか、なかなか賞を取る事は難しかったようですが、映画作品としては充分に賞にも値する出来です。
単純な戦争映画やヒーローものといった枠では語れない、観客がその余韻の中で何かを感じる、感じずにはいられない作品だと思います。
特典映像は少し長めですが、作品が良かったと感じたら是非観た方が良いと思います。作品への理解がより深まります。