「ヨーロッパとアフリカ」パレードへようこそ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
ヨーロッパとアフリカ
ウエールズ地方の炭鉱夫たちのストをロンドンのゲイが支援したという事実に基づく物語。
偏見や文化の違いを乗り越えて連帯へと向かう様子が、80年代のファッションや音楽にのせて描かれている。ゲイの一人がディスコのダンスを披露することで、炭鉱夫との気持ちが通じるところは音楽というものの力を感じさせる爽快な場面だ。
この時代、イギリスをはじめとする西ヨーロッパの国々は左寄りの政治経済が行き詰まり、サッチャー政権による改革が強引に進められていた。この社会経済の改造の中で犠牲を強いられた人々と、来るべき同性愛者の自由を求める人々が連帯する姿は、当時のイギリスが迎えていた大きな変革期を象徴している。
エピローグでは、登場していた炭鉱夫の妻が、この運動ののちにその地方で初の女性議員になったことが紹介される。女性の社会進出、多様性などでは先を行くイギリスにおいても、保守的な地方ではそのようなものかと知らされる。
同じ時代、アメリカのポップシーンでは「Save Africa」と叫んでいた。あのアメリカのスターたちのアフリカへの接し方や眼差しのあり方はともかくも、多くの観客が、現在も変わらぬアフリカの衣食住全てに事欠く状態を知っている。
しかし、ストライキ(これは労働者の確固たる権利である!)をしている間も、ビールや缶詰、そして家族で安心して眠れるベッドには不足しない炭鉱の村は、アフリカのような困窮とは無縁だ。これは、この後おとずれる東ヨーロッパやソ連の体制崩壊の時にも抱いた印象と共通のものだ。
このような、懐疑的な視線にも関わらず、その物語に引き込まれるのはキャストの存在感による。イギリス映画を観るたびに思うことがある。美男美女など一人も出てこないのだが、スクリーンに映し出される人々への興味が尽きないのだ。映画のお国柄と言ってもよいかもしれない。