「TVっ子、バンザイ!」イニシエーション・ラブ mg599さんの映画レビュー(感想・評価)
TVっ子、バンザイ!
乾くるみの原作は感心して読んだ。これを映画にするとは、一体どういう手を使うのか。
その手については後述するとして、1960年代生まれのTV好きには、この映画で描かれた世界観は、そのまま青春時代にはまっている。それは個人の体験に根ざしたものではなく、ドラマやファッション、音楽、それに伴うアイテムがドンピシャなのだ。
カセットテープに「マイベスト」などと銘打っていろんな曲を録音したりもした。いま考えるとかなり恥ずかしいが、いまならもっとスマートにできるはずである。
舞台は1987年、その頃の曲がふんだんにかかる。それはまるでジュークボックスのようであった。小椋佳の「揺れるまなざし」から始まって、オフコースの「Yes-No」、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」、寺尾聰の「ルビーの指環」。
極め付けは森川由加里の「SHOW ME」である。ラストのあの瞬間にイントロを鳴らすのは、もうこれは確信犯で、堤幸彦の狙いがバッチリはまった瞬間であった。
で、映画は、原作とほぼ同じように進行する。原作に忠実といっていい。
side-Aのたっくん(森田甘路)が頑張ってダイエットして、side-Bのたっくん(松田翔太)になったという体である。
そして、ラストでそのふたりをマユ(前田敦子)の前で鉢合わせさせる。文字通り衝突させる。マユが前のたっくん(松田)を認めたところで「SHOW ME」のイントロが流れる。いま思い出しても鳥肌が立つ。
side-Aのたっくんは、かなりの難役だったはずで、それをポスターに名前を載せられることもなく、いろいろな宣材にも名前はなく。だが、映画を観た我々は、彼のナレーションによって映画に導かれ、彼の幸せを願ってやまない、そんな気分にさせられた。
森田甘路。
ナイロン100°Cの役者だそうだ。
どうりで、できるはずである。
公開中に、もう1回観に行くかも。それはあの「SHOW ME」のイントロを聴くために。