「ショック」イニシエーション・ラブ stk01さんの映画レビュー(感想・評価)
ショック
ネタがどうとか最後がどうより、イニシエーションラブという概念そのものがショックだった。同じ静大にいた身としてリアル過ぎた。静大にいれば耳にすることだが、全国の大学で同棲率No1は筑波、No2が静大だそうだ。嘘かホントか知らないが。でも、都心みたいに「電車何本か離れた彼女の家に会いに行く」とかいう距離感ではないのは事実で、静大の坂を降りたあの一帯はまさに学生ムラで、駅とは反対方向に隔絶されているし、その一体に自分のアパートも彼女のアパートも徒歩5分以内にあるんだから、一緒に住まないわけがない。当時は東静岡だって無かったからバスだって駅行きしかなく、出かけるには原チャか彼氏の車なわけで(だから前田敦子が免許をネダるのはほんとリアル、ただし自動車学校は古庄か県自で撮影して欲しかった)、わざわざ別々のアパートにいる理由はない。親もいないんだから。まさにこの映画の雰囲気そのまま、彼女か自分の家か、どっちかに「同棲」する生活になるのはあまりにも自然で、周りの友人も、自分も、本当にこの映画そのものだった。講義以外は朝も夜も一緒にいるから、勢い「妊娠したかも」なるわけで、この不安はみんな通る道だったし、映画のような秘密をもった2人もホントいただろう(それくらい同棲が当たり前)。卒業してから男のほうが静岡から出て、彼女は地元の医療機関勤め、あれだけ仲良かった先輩カップル2人が卒業から2年もしないうちに別れた、なんて話は実際にあったし、聞いた時は耳を疑ったが、彼らに取ってのイニシエーションだったと理解できて、ホント納得した。常盤公園や静波はベタだけど、日本平のテニスとか、ほんと静大の学生っぽいアパートとか、原作は読んでないけど、映画は静大をよく研究したのかというくらいリアルで。「遠距離になっても俺が頑張れば続けられると思っていた」なんてセリフ周りでも自分でもほんとリアルだったし、しかし無理してそれを続けていて幸せになった例は自分を含めて一つも聞かず、というか、続けた結果一生ものの破綻をもたらした。それがイニシエーションといわれて今さら納得。衝撃だった。加えてそれは、男の側でなく女の側にとってもそうなのだ、だから保険をかけて行動する、それが自然だという含みがこの映画にはあるし、それは自分の相手のみならず、当時の同期や後輩の女子にも同じような人がいたであろうこと(心当たる)がリアルに思われて、背筋がブルっとくる。返って見れば、太った彼にとってもイニシエーションなわけで、彼は古庄の医療機関での便秘処置を信じてそのまま結婚してしまうのか、気付いて別の道に行くかは分からないけど、前者の可能性も十分あるし、その果てに数十年してから破綻に至ったとか、ほんとリアルにありそう。通過儀礼として綺麗な思い出にしておく、というには、3年以上に渡る同棲生活(しかも一生のうちのあの歳で、しかも静大で)を経たうえではリアルに重すぎて、簡単ではない。残るし、引きずるし、難しいが、でもそうしないと破綻が来るのだと、心底思わされた映画だった。原作はまだ読んでないけど、静岡は舞台では無いのでは?イニシエーションラブなるもの自体は、全国のその年齢の男女が必ず通る道だろうから、それを小説にしただけなのかもしれないけど、映画化するにあたり、よりによって静大を、同棲率の高い静大を、卒業とともに、新婚夫婦のように毎日一緒にいた彼氏彼女が社会人になって離れる静大を、よくもまあこの映画の舞台として見つけたものだ。彼が赤いナイキのシューズで走るあの坂は、二ツ池の小鹿公園から登って高速沿いに並ぶアパートの前だろう。事実、友達のカップルは実際そこにずっと同棲で住んでたし、しかし卒業間近で別れて、ちがう結婚を選んでたっけ。心当たりが多すぎて、ネタバレとかそういうのはどうでもよく、とにかくイニシエーションラブというもののソラ恐ろしさと納得が、深く心に残る作品だった。