「悲惨をみせずに写しだす、戦争の悲しさ。」この国の空 年間100本を劇場で観るシネオさんの映画レビュー(感想・評価)
悲惨をみせずに写しだす、戦争の悲しさ。
先日観た「日本のいちばん長い日」
と見事にシンメトリーになっていた。
皇室や政治家や軍人が、
混乱の中で戦争を終わらせる話に対して、
こちらは
なかなか終わらない戦争に翻弄される、
平凡な少女の話。
太平洋戦争末期の、東京杉並。
毎日のように空襲警報が鳴り響き、
B29の焼夷弾に怯え、
食料給付も少なくなる。
原子爆弾や本土決戦の恐怖から、
死への覚悟を受け入れる。
そんな絶望的な焦燥感のなかで生きた
母娘のスライスオブライフが、
淡々と描かれていく。
食事のシーンが多いのも、
彼女たちの生命力を、
浮彫りにしている。
悲惨な現場をみせなくても、
戦争の悲しさが、
親子の毎日を通して、
しんしんと伝わってきた。
主人公の里子は、
とにかく戦争に苛ついている。
娯楽なんて何もない。
自分がいちばんきれいな時だろう
結婚適齢期に、
男たちは戦場に行ってしまい、
恋をしたこともない。
そんな里子が
虚弱体質で兵役を免れた
妻子ある男に惹かれていく。
欲望を満たすことで、
不安から逃れようとする二人が、
あまりにも切なすぎる。
全体に静かなトーンが、
映画を上質なものに仕立て上げている。
二階堂ふみさんと長谷川博己さんの台詞回しが、
とにかく美しい。
抑えられながらも情緒を感じる、
会話の内容と声、表情、心情などの、
繊細な描写がうまい。
まるで
小津作品のオマージュのような佇まいに、
思わず息を飲んでしまった。
工藤夕貴さんの母親も、良かった。
自分の過去を娘にさらけ出すシーンは、
女になった娘への愛情にあふれていた。
エンドロールで、
女性詩人・茨木のり子さんの
「わたしが一番きれいだったとき」
という詩の朗読には、
不覚にもぐっときてしまった。
安全保障関連法案を
成立させようとしている時代に、
何も不自由のない現代の女子を見ていると、
戦争の不幸を二度と繰り返さぬようにと、
祈るばかりだ。