「汗滴るエロス」この国の空 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
汗滴るエロス
R指定がつくような映像はないですが、エロス溢れる映画でした。
長谷川博己の手と唇と舌がとってもエロティックで獰猛で、脳裏に焼きつきました。すごーく興奮しました。
柄杓の水を飲み干す口元、上下する喉仏、里子の口を吸おうとした時の半開きの唇!などなど…いろいろいやらしくって(褒めてます!)どっきどきでした。
髪の匂いを嗅ぐのも良かった…
まさかこんなに持っていかれるとは…思ってもみなくて、まだ興奮が体に残っている感じがします。
昨日まで月9ドラマの「デート」を見直していたのですが、35歳DTの高等遊民やってた人と中の人が同じとは思えない振り幅で、さらに長谷川博己が好きになりそうです。
二階堂ふみもいつものことながら良かったです。内に溜まる欲望を持て余している様子が官能的でした。蚊を殺して手の甲に残った血を舐めるところ、トマトを食べるところを凝視するところなど、グッときました。
市毛との交わりの後で水を浴びるシーンがあり、全裸の後ろ姿が拝めます。脇から覗く胸がやはりボリューミーです。
びっくりしたのが、工藤夕貴の背中ショットから覗いた下乳と脇毛です。まーこちらもエロティックでした。中年女性の肢体は若い女性のそれとはちがう美しさがあっていいですねぇ。
はい、ここまでは個人的な萌えです。
1945年の春から夏、それも8月14日の夜までの話です。母と(途中から伯母も)暮らす少女里子は、結婚も恋もできずにいることに絶望しています。そして隣家の38歳の銀行員市毛に惹かれていきます。市毛は妻子を疎開させて独り暮らしです。
母は里子が市毛に惹かれているのを知っていて放置している風です。男に溺れる経験をさせたい、それも女の幸せというところでしょうか?相応しい相手がいない世界故の歪んだ願いと解釈しました。
見る前は割とすぐ市毛と里子はどうにかなるのかと思ってましたが、多分8月にはいってから、それも原爆が投下されてから一度だけ交わったのみでした。それでも上記のようにどっきどきでしたが。
割と里子の日常風景が多く、伯母と母の食べ物を巡る小競り合いやら、ご近所さんとの関わりなどに割かれるシーンが多かったです。
一つ気になったのが、結構ええもん食べてへんか?ということ。麦やら豆やら混ぜてるにしてもお粥みたいな薄いものではなく噛める系のご飯でしたが、あれは東京で、しかも家賃収入のある家だからできたことなんでしょうか?
これまで見てきた戦争中の食卓の中では、豪華な方だった気がします。
朝ドラの「ごちそうさん」とか「カーネーション」とか、あとは漫画「この世界の片隅に」(こうの史代著、名作です)なんかで知った限り、もっと侘しい食事だったような…
どうなんでしょうね?これから「戦下のレシピ」(斎藤美奈子)を読むので、その辺意識して読んでみようかな。
里子の日常と、焦燥感と、抗えない市毛への思慕(思慕というかやり場のない欲望の捌け口とも言えるかも)が、客観的に描かれていた印象です。
監督・脚本の荒井氏は、割と主観を強く押し出す作家のイメージだったので、苦手意識があったのですが、この映画ではそういうひっかかりは感じませんでした。
作中人物の主観はありますが、その裏の作り手の意図は鑑賞の妨げにならず、とても物語に引き込まれました。
市毛は手を出した後はやりたいだけの男に見えました。妻子が帰ってきても君が好きだとか、バカも休み休みいえと思いました。
里子はその点聡明です。この恋が幸せをもたらさないことははなからしっています。だから私の戦争は今から始まる、なのだと思います。このあとの二人はどうなったんでしょうね。
そしてエンドロールは茨木のり子の有名すぎる詩「わたしが一番きれいだった時」の二階堂ふみによる朗読。
淡々と発せられる言葉に力がありました。
富田靖子のすこし精神が不安定な伯母もよかったですし、石橋蓮司も可愛かったです。
戦時下の庶民の日常と、ある少女の女への開花を味わう映画です。