「狙いが判らず、笑うに笑えないコメディ」フレンチアルプスで起きたこと りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
狙いが判らず、笑うに笑えないコメディ
オヤジの威厳失墜のコメディなのね、なんて思って観に行ったのだけれど、なんだか単純なコメディでない。
というか、そもそもコメディはないようだ。
「オヤジの威厳失墜」とかそんなことじゃなく、だれもが慌てふためいたら(というか想像以上の生命の危険を感じたら)取る行動はふたつしかないと思っている。
ひとつは、逃げる。
もうひとつは、そのまま硬直する。
誰かを守る、なんて行動、咄嗟に取れるはずがない。
映画では、トマスが逃げ、エバは硬直した。
ただし、娘も息子も硬直しているので、それに気が付いて庇っただけだ。
大事には至らずに戻ってきたトマスを待ち受けていたのは・・・
夫婦の危険、と親子の危険。
映画は、前者、どうしてもトマスの本心を引き出したいエバを中心にその後のハナシを進めていきます。
だけれど、どうも、深掘りが浅いというか、語り口が拙いというか、観ていてイライラしてくるのです。
男の役割、特に家長としての役割・あるべき姿に対するヨーロッパの一般的な考えは、たぶん、かなり旧弊で、男は一家を守るべし、さらに母も一家を守るべし、という風潮がいまだに強いのでしょう。
そこのところが、すっと入ってこないので、もどかしい。
さらに、トマスは失墜していることを繕うべく言い訳に終始し、あぁあ、ホンマ、雪崩が迫って怖かったんやから・・・ゴメン、といえないあたりは、うーむ、これはなんなのかしらん。
まぁ、軽く言っちゃうと、全然反省していないのだけれど、そこまで鎧を身に纏ったかのように本心を言わないのもどうかしらん、なんて思うわけで。
それが、終盤、激涙と号泣といってもいいほどのさまを突然見せるトマスは・・・
うーむ、これは、神の前での告解なんだろうか、なんて思ってしまう。
とにかく、終始、映画としての狙いがよく判らなかった。
ほとんど固定のポジションで撮られたカメラ(後半、その図画はかなり不安定になったり、ゆっくりとアップになったりするが)の意図も判らない。
さらには、帰路のバスでのエピソードもよく判らない。
こちらが未熟なのかもしれないが、とにかく狙いが判らないし、語り口も好みでなく、個人的にはガッカリな一編でした。