「ジュラシック・パークを思い出したら…」フレンチアルプスで起きたこと 悶さんの映画レビュー(感想・評価)
ジュラシック・パークを思い出したら…
【鑑賞のきっかけ】
画像配信サービスで、ウォッチリストに登録したものの、長らく未見でした。
しかし、このサイトを始めとして、ネット上での評価は悪くなく、一見の価値はありと判断し、鑑賞してみました。
【率直な感想】
<テーマが最初はよく分からず>
私は、映画鑑賞に当たっては、予告編くらいしか予備知識を入れないようにしています。
本作品は、スキー場でバカンスを過ごす4人家族の物語ということ、人工的な雪崩がきかっけになり、家族の危機が訪れるということは、予備知識として頭に入れて鑑賞開始。
物語の早い段階で、雪崩が起きるシーンが流れます。
私は何となく、この雪崩で、スキー場に閉じ込められてしまい、密閉状態からくる、心理的葛藤が描かれていくものと思っていました。
ところが、雪崩の実害はなく、主人公の4人家族を始めとした宿泊客は全員無事。
その後、ストーリー的には、何か特別な出来事が起こるわけではなく、淡々と進行。
そのうちに、雪崩が起きた際、夫のトマスが2人の子どもと妻のエバを残して、自分だけ逃げてしまったことに、妻のエバがわだかまりを感じていて、ここから、夫婦間に亀裂が走っていくことが分かりました。
でも、私は、妻のエバの主張が過剰反応のように思えて、最後まで、この妻への感情移入が出来ず、鑑賞を終えました。
鑑賞直後は、何だか今ひとつの作品だな、という感じでした。
<そうだ!ジュラシック・パークと同じではないか!>
そして、数時間後。
あの「ジュラシック・パーク」第1作(1993年)の記憶が甦ってきて、本作品への感じ方が変わりました。
「ジュラシック・パーク」での、中盤の見どころとして、停電で高圧電流の通らなくなった柵を乗り越えたティラノサウルスが、主人公たちを襲うシーンがありましたよね。
あのとき、主人公たちは2台の車に分乗していて、前方の車に、2人の子どもと、調査役の中年男性。後方の車には、2人の男性の博士が乗っていた。
ここで、前方車の中年男性は、恐怖を感じ、「2人の子どもを残して、車外に逃げて、トイレに閉じこもります」。
そして、子ども2人だけとなった車にティラノサウルスが向かっていくのを見て、2人の博士は身の危険を顧みず、救出に向かう、という流れでした。
この子どもを残して、車外に逃げ出した中年男性の行動は、正に、本作品の夫トマスの行動と同じです。
このシーンを観て、多くの方は「この中年男性は、悪い大人だな」と感じたのではないでしょうか。
自分の子どもではないにしても、子どもを残して逃げてしまうのは、大人の行動としては、失格ではないか。
2人の博士は大人として当たり前の行動を取っただけだよ、と。
ここで、私は気づいたのです。
あれ?妻のエバがこだわっていたこと、そのものではないか?
ジュラシック・パークでは、子どもたちは、中年男性の子どもではなかったけれど、人は非難したくなる。
本作品の場合、残された子どもは夫トマスの実の子どもなのだから、妻のエバがこだわるのはむしろ当然といえる、と。
ここに至り、本作品は、実に興味深いテーマを取り上げた作品であることに気づきました。
【全体評価】
普通、映画は鑑賞直後が一番、感銘を受けた状態なのですが、本作品は、鑑賞後、過去の作品を思い出して、じわじわと感銘を受けるようになった珍しい作品でした。
結論的には、良作であったと感じています。