「争いや対立はもううんざりだ」ボーダレス ぼくの船の国境線 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
争いや対立はもううんざりだ
国境の河に浮かぶ廃船をねぐらにしているペルシャ語を話す少年。そこへアラビア語を話す少年兵の恰好をした少女がやってきて、鉄の廃材を持ち出していく。そして、少女がやってきた方角で大きな爆発が起きた後、彼女は赤ん坊を連れてその船に住み着く。
対立が溶けて、二人は協力して赤ん坊を育て始める。そんなとき、英語を話す米兵が船中に現れ、銃口を向け合った末、米兵は船室に閉じ込められる。のどの渇きに耐えかねて拳銃を手放すことで米兵は解放される。そして、三人による奇妙な生活をしばらく続けることになるのだった。
ざっとこのような物語なのだが、三人の登場人物のそれぞれの言語が異なるので、極めて少ないセリフは物語を推進するようなものではない。ストーリーを進めていくのは、この人々の互いに対する想像力と共感による行動である。
無理解からくる不信と恐怖。これらによって人々は対立する。
しかし、互いの内面がそれほど異なることもなく、自らの心情を通じて相手を理解することができると分かればその対立は融和に変わる。
銃口を突き付け合う不信と恐怖に疲れ果てた三人は、銃を手放し互いを信じるという勇気があった。しかし、残念なことにこの勇気が現実の世界で人々の心中に芽生えることはほとんどない。
中東での殺戮が一体いつまで続くのか。彼らのように本当はもうみんなうんざりしているはずなのに、殺し合いは終わらない。一人一人の心の中に、小さな勇気が宿る日はいつか来るのだろうか。
フィクションを通じて具体的な視点を提示する、その意図が非常な成功を収めている映画。
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