サンバ : 映画評論・批評
2014年12月22日更新
2014年12月26日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
パリの移民を絶妙なバランス感覚と楽観性でドラマ化
「ビザなし、金なし、住所なし」の、この映画の主人公サンバ(オマール・シー)のような移民は、パリには本当にたくさんいる。そして、それをテーマにシリアスな社会派ドラマにした映画もまた珍しくない。だが「サンバ」がそれらの作品と異なるのは、その絶妙なバランス感覚だ。
こう書くとなんだか軽く聞こえるかもしれないが、現代的なテーマを利用して安易なコメディに仕立てるわけでも、声高なメッセージを一方的に押しつけるドラマティックな悲劇にするわけでもない。人生とはそもそも山あり谷ありなもの、つまりそれこそ笑いもあれば涙もある、リアリスティックなドラマに仕上がっているのだ。
実際パリに暮らしている立場から言わせてもらうと、「あ~こういう場面、あるある」と膝を打ちたくなるところが少なくない。たとえば移民相談所で働いているシャルロット・ゲンズブール扮するカウンセラー。前の職場で神経衰弱になり、サンバの相談にのるはずが逆ギレする困ったキャラクターだが、現実にこういうシチュエーションに出会うことは少なくない。そんな彼女とサンバが問題を抱える者同士として、少しずつ心を通わせて行く。ここで2人がさっさとベッドインなどしないところもまた、演出の思慮深さが伺え、好感が持てる。
サンバの相棒となる、やたら陽気で世渡りのうまそうな兄ちゃん(タハール・ラヒム)も、パリにはよくいるタイプ。さらにサンバの父が象徴する、フランス社会に受け入れられるのに大きな苦難を強いられた世代の姿も語られる。こうしたさまざまなキャラクターが交差し織りなす人間模様の根底には、それでもどこか希望と楽観性が伺え、観る者の心を少し元気にしてくれる。サンバ役のオマール・シーの真実味あふれる演技も、映画のトーンに大きな貢献を果たしていることを付け加えておきたい。
(佐藤久理子)