「人間が先かセイウチが先か」Mr.タスク 鮭茶漬けさんの映画レビュー(感想・評価)
人間が先かセイウチが先か
題名の通り、「人間はセイウチなのでは?」という疑問に真っ向から挑んだ意欲作。
そもそも、人間はセイウチではありません。
考えるだけアホです。小学生だって知ってます。
しかし、ハワード老人は至って真面目に考えます。その感情は、真面目過ぎて狂気を通り越してなんかもう純粋な何かと化します。
そんなハワード老人の崇高な目的と、不運にもそれに巻き込まれてしまった男ウォレスの物語。
前半部分は結構手堅い作りとなっており、ハワード老人の得体の知れなさも相まって、これからウォレスに施される人体改造を考えると……恐怖を禁じ得ません。怖い。
紆余曲折あってウォレスの恋人と友人のジョエルオスメント君が、行方不明となったウォレスの捜索を開始。
一方その頃、ウォレスは……なんと、セイウチ人間になってしまった!
このセイウチ人間のビジュアルですが、なかなかに酷い。
酷いというのはグロテスクで直視出来ないという意味合いではなく、ただただ安っぽい。すごくチープ。
両足を切断し、腕部の皮膚を胴体に縫い付け、切断した脛骨を削って牙を造り、口内に開けた穴に牙を取り付け、人間の皮膚で作ったセイウチスーツを身体中に縫い付ける。
文字面だけ見ると恐ろしいですが、その結果は日本の特撮に出てきそうな感じのセイウチ型の物体でした。
前半部の真面目な空気も相まって、爆笑を禁じ得ません。
個人的に、セイウチ人間になる過程がかなり省かれてしまったのは残念。
ここから、この作品は別ジャンルへと変貌します。
ウォレスを捜索する二人は、ジョニデ演じるいかにも怪しいアル中探偵と出会ったりします。
先程のセイウチ人間(笑)に加えて、このアル中探偵の登場により、ホラーの要素は消え去り完全にコメディと化します。
しかしながらこのアル中探偵、「ま た か」と言いたくなるくらい既視感に溢れたジョニデです。
面白メイクしたひょうきんなおじさん。
正直、ぼくは退屈で仕方なかったです。
一方その頃、ウォレスは……セイウチ人間としてハワード老人との触れ合いを重ねておりました。
セイウチ人間とハワード老人の邂逅を通じて、老人はなぜセイウチ人間を造ったのか、その動機が徐々に明かされてゆきます。
その様子のシュールさは凄まじく、笑えます。
セイウチ型の肉塊に寄り掛かり、悲しげな顔をする老人。社会に虐げられてきた自身の身の上や、海の男として社会と決別したにも関わらず戻ってきてしまった後悔を語ります。
老人の悲しげな様と、ウォレスの必死さのコントラストが素晴らしく、終始笑えます。
最初は必死で拒絶していたウォレスも、徐々にセイウチとしての自分を認め始め、餌として差し出された生魚をガツガツと喰らいます。
その様子を見て、老人は満足気な顔を見せ、しかし悲しげな表情も見せます。
そう、彼は糞ったれな社会に戻るために、大切な友人を裏切ってしまったのです……。
いよいよ終盤。
ジョニデ探偵達一行は、とうとうウォレスが監禁されている屋敷へ辿り着きます。
一方その頃……ウォレスの前には、お揃いのセイウチスーツに身を包んだハワード老人が立ちはだかります。
訳が分かりません。
老人は言います、「私を殺してセイウチとしての生を全うするか、ここで私に殺されるか、二つに一つだ」と。
お互いの命を懸けた、熱い闘いの火蓋が切って落とされます。
しかし、このスーツは死ぬ程動きづらく、お互いがもぞもぞしながらペシペシやり合います。
なんだこれ。
闘いの最中、老人は自らが犯した罪を独白します。
老人が若かりし頃、漂流した島で出会った唯一の友人、セイウチ君。
人間から拒絶され続けた彼が初めて心を通わせることが出来た存在であり、彼にとっては人間以上に崇高な存在でした。
しかし、自身の生を渇望した彼は、生き延びるためにセイウチ君を殺してその肉を喰らいます。
そうして、彼は無事に捜索隊に発見され、自身を拒絶し続けた人間達の元へ帰ることが出来たのです。
老人は言います。
「あの時あげられなかった、闘うチャンスをやろう」
闘いは更にヒートアップ。
ペシペシが加速します。
そして、とうとう老人は本気を出し、スーツを脱ぎます。
そう、彼はセイウチではなく、人間なのです。
ずるい。
しかし、ウォレスはその隙を見逃さず、その鋭い牙を老人の足に突き刺します。
堪らず倒れる老人。
老人に覆い被さり、ウォレスは牙をその胸部に突き刺します。
もはや人間ではなく、完全にセイウチ、野生の獣です。
何度も何度も串刺しにされ、苦悶の表情を浮かべる老人。
しかし、老人はどこか安堵のような表情を浮かべながら息を引き取るのでした……。
そんな現場に、恋人とジョエルオスメント君が到着。完全にセイウチと化したウォレスの姿を見て、ショッキング。みんながショッキングで取り乱しているところに、ジョニデも遅れて到着。ジョニデはウォレスに銃を向け……。
そして1年後。
恋人とジョエルオスメント君は、新聞紙に包まれた何かを持って、動物保護施設を訪れます。
恋人は、動物園のセイウチが展示されているような檻に向かって「ウォレス!」と呼びかけます。
しかし、反応はありません。
新聞紙の包みを取り出すと、中には生の鯖が。
鯖を檻に投げ込みます。
すると……奥からウォレスが現れ鯖をガツガツと喰らうのです。
悲しげな音楽が流れ、物語は幕を閉じます。
長々と書きましたが、なんでこんな糞映画のレビューを真面目に書いてしまったのか。
後悔しかありません。
それでも、確実に光るものはありました。
愛すべき糞映画、Mr.タスク。
エンドロールのオーディオコメンタリー的なのは滑ってたぞ!