「離縁復縁再出発。」駆込み女と駆出し男 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
離縁復縁再出発。
劇場もロビーも今作を観るオバちゃんたちで埋め尽くされていたが、
さすがの原作(井上ひさしが晩年11年かけて紡いだ時代小説)だけに
内容も非常に面白かった。早台詞が大半なので冒頭かなり聞き辛く、
何を言ってるのか分からん?状態になるが、人物の動きとテンポで
彼らが何を言い、どう動こうとしているのかを読みとるのも面白い。
そして女達を見守る主人公、大泉洋が信次郎役にピタリとはまった。
彼の言葉に頷いては頭を働かせ成長する女達同様、観客もなるほど
と思わされる場面が多数ある。べらんめえ調の丁々発止が続く反面、
流暢な日本語が次々と披露され、改めて正しい使い方と意味を理解。
縁切り寺である東慶寺の実情に加えて当時の社会を描いた場面が多く、
男からは簡単に離縁できる男尊女卑の描き方も、それが寺では逆に
なるところ(目も合わせられない)など面白さも満載でコメディか?と
思うほどだが、信次郎とじょご(戸田)の成長場面では恋心もしっとり。
動と静の見事な配置は後半の選択まで見当がつかずにハラハラする。
短編を纏めたエピソードにはもっとそぎ落としていい物語もあるが、
多岐に渡る夫婦問題が現代にまで通じていることが分かると興味深い。
縁切り寺に駆け込む女達が心から望むのは、離縁だけではなかった。
私的に一番目を惹いたのがお吟(満島)と堀切屋(堤)のエピソードで、
離縁したいお吟の態度がどうも夫に惚れているとしか思えないのが
あぁ~そういうことだったのか、やはり。と真相を知って涙が出た。
私もそれを「粋」だと思っていたので堀切屋の言葉にはへぇーっと思い、
あぁこの小説時代劇をもっと深く観ていきたいと思った。先日観た
「百日紅」同様、連続ドラマでやってもいいほどの広がりを持っている。
(泣いて笑って再出発。どのみち男と女は共に同じ時代を生きてゆく)