「アクションを勘違いしている」ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション panchanさんの映画レビュー(感想・評価)
アクションを勘違いしている
見せ場は冒頭の飛行機のシーンと、水中の金庫のシーン。
冒頭のシーンは「付録」。こんなすごいシーンが冒頭にあるのだから、あとはもっとすばらしいはず、と期待を抱かせる。予告編につかわれていたシーンだが、本編でも「予告編」をやっているという感じ。「インディー・ジョーンズ」でスピルバーグがつかった手だね。命懸けでたいへんだとは思うけれど、どうせ映画だからねえ、とも思う。何度も見ているので、もう興奮はしないなあ。だいたい、こういうシーンが現実にはありえないという感覚の方が先に立つ。そういうことをしたことがないからね。
これにくらべると水中金庫のシーンはおもしろい。水中で息を止めて何かをするということは「体験」がある。1-2分しか息を止めていられない。つまり「肉体」がおぼえている感覚がある。それが見ていて、肉体を刺戟してくる。あ、苦しい。息がつづかない。水中で流れる物をつかむなんて難しい。流れに逆らって泳ぐのは難しい。ひとつひとつが、肉体に響いてくる。知らず知らずに息を止めて見ていたりして……。
これが映画や芝居の快感だねえ。自分の肉体でできそうで、できない。自分はできないことを役者が肉体をつかってやっている。その肉体の動きをまねしてみたい。「マトリックス」の背中をそらして弾丸をよけるシーンとかね。肉体が無意識の内に役者の動きをまねしている。そうして、そのまねが、そのまま役者への共感になる。トム・クルーズになった気持ちになる。水なの中なので、肉体の動きがゆっくりしているのも、なんだかまねしやすいというか、肉体の感じがよくわかっていいなあ。
あとの派手なアクションはスピードが速すぎて、肉体が反応しないなあ。カーチェイスはもちろんのこと、生身の肉体をさらして動くバイク・チェイス(?)のシーンも、トム・クルーズとは「一体」になれない。快感にならない。転んだときの「痛み」なんかもぜんぜん伝わってこない。これではアクションをしている意味がない。
トム・クルーズは自分で危険なシーンを演じるのに夢中になって、演技の基本を忘れてしまったのかもしれない。あ、これは監督の方針なのかな? どうせ複雑な役どころはこなせない。アクションでびっくりさせればいい、ということかな?
アクションとは別に気がついたことは……。
トム・クルーズ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペッグ、アレック・ボールドウィン。顔が短い。丸っこい。昔の男優とは趣が違う。人懐っこい感じ。(悪役はあいかわらず昔の男の顔。四角くて長い。)スパイとか、あるかないかわからないシンジケートとか、あるいは超人的なアクションに昔ながらの男が出てきたのでは、人間っぽい感じがなくなってしまうから、童顔系で観客との距離を縮めているのかもしれない。語弊があることを承知で言えば、子ども、女性向けの映画だね。