おみおくりの作法のレビュー・感想・評価
全27件中、21~27件目を表示
誰の死にも価値がある
2008年の『おくりびと』や先日公開されていた
『悼む人』と非常に近いものを感じるが、こちらは
よりリアリティ重視というか、ささやかでシニカル。
ロンドンの民生係として、孤独死した人の身辺調査や
葬儀を行っている主人公ジョン・メイ。
死後の世界があるかどうかは知らないが、
自分が彼に葬られる立場だったら本当にありがたい。
見ず知らずの他人の死を、見返りの言葉も求めずに
ここまで誠心誠意に扱ってくれるなんて。
彼は、故人の持ち物をよく観察し、その人が大事に
していただろう物事を丁寧に汲み取って葬儀に活かす。
それまで扱った故人の写真も、スクラップブックに
取ってある。せめて自分だけは彼らを覚えておいて
あげたいと言わんばかりに。
主人公メイを演じたエディ・マーサンの、慎ましげな
佇まいがなんとも言えず良い。こじんまりとしていて、
日々の光景に埋もれてしまいそうな雰囲気の男。
孤独な暮らしを送る彼だからこそ、故人の感じただろう
寂しさを晴らしてあげたいと強く思うものなのかも。
.
.
.
どんなケースでも手を抜かない心優しいメイだが、
上司から見れば彼は価値のない仕事に手間を費やす金食い虫。
ついには上司からリストラを宣告されてしまう。
いやまあ予算削減という事情は分かるし、
その予算だって税金から捻出されてるんだろうけど……
なんでもかんでも効率効率の世の中ってのは薄情でヤだね。
あの笑顔のムカつく上司といい、ケバケバしい女性職員といい、
死者への敬意というものを寸分も持ち合わせてないのかね。
自分や親戚の遺灰を、掃除機に溜まった埃でも
棄てるかのようにぞんざいに土に撒かれたら、僕は
多分そいつをブン殴ってしまうんじゃないかと思う。
車に○○○○○なんて可愛いもんですよ(そうか?)。
.
.
.
メイの最後の仕事は、自宅の向かいに住んでいた老人の葬儀。
名前も顔も知らなかった隣近所の人間が孤独死していた
と知ったら、嫌でも自分の死に様を想像してしまうだろう。
人間、一度でいいから自分の死を意識しないと、
生きている事のありがたみには気付きづらい。
老人の人生を追い、彼に関わった人々と接する内、
メイの表情は不思議と晴れやかになっていく。
最後には恋にすら落ちたりもする。
あんなに興奮しながら葬式の話をする人も珍しい(笑)。
旅の始め、列車の座席に後ろ向きに腰掛けていた彼が、
旅の終わりには列車の進行方向に合わせて腰掛けている。
文字通りの“前向き”な気持ち。
新聞の隅っこに押しやられるような孤独な死を迎えた人にも、
様々な人との出逢いや想像だにできない過去が詰まっている。
だから、ひとつひとつの死を疎かに考えてはいけないし、
同時に自身の生における出逢いも大事にしていかなくては。
.
.
.
不満点。
いかにも作劇的というか、物語を終わらせる為の
デウス・エクス・マキナ的な終盤の展開が、僕はあまり気に入らない。
感動的ではあるのだが、ささやかでリアリティのある
前半と比べると、若干ちぐはぐな感じを受ける。
これは死後の世界の存在について懐疑的な人間の言い分だが、
『死後』があるかどうかも分からないのに死者を敬うからこそ、
その行為は真に見返りを求めないものに成り得ると思う。
その行為がその人にとって切実なものになると感じる。
だが、あのラストは『見返り』を形として見せてしまった。
そして、それまでじっくり付き合って来た主人公を
脚本家という神が殺す。これも気に入らない。
いや、訴えたいテーマの為に登場人物が死ぬ事は、
物語においては往々にしてある事だ。
脚本家は、死はどんな人にも平等に訪れると
伝えたかったのかもしれない。
生には限りがあるから後悔する生き方をするなと
伝えたかったのかもしれない。
しかしながら、本作は実際の新聞記事からヒントを
得たというややノンフィクション寄りの物語だ。
現実から如実に着想を得た登場人物を殺すという行為が、僕には作り手の一種の傲慢であるように感じてしまった。
.
.
.
とまあ終盤に関して不満点はある訳だが、
それでも大満足の4.0判定で。
死は哀しいものだが、そこに何も残らない訳じゃない。
誰の死にも僕らと同じく過去があり、出逢いがある。
誰の死にも価値はある。
そんなことを思わせてくれる映画でした。
<2015.04.04鑑賞>
イギリスらしい
LiLiCoさん一押しということで。
ジョン・メイの行く末が観ながらなんとなく予想できてしまいました。
まあ、予想できない結末!だけがいいとも限らないし、イギリスらしい皮肉が効いてるなという感想でした。
前半部分は、眠くなってしまいあまり覚えてない…
いつのまにか最後の身元不明人を調査することになってました(^^;;
アルバムを見返す場面は伏線になってるし、写真一枚で彼がやってきた仕事、それぞれの人生を垣間見れた気になれて美しいと思いました。
ジョン・メイの人となりを表す食事や座り方や事務所の演出、演技が良かったです。
ラスト
予感はあったけど、メイ氏の最期がなんともアイロニック…。お国柄なのかしらん。
自分の弔った死者たちに悼んでもらって初めて、彼の仕事(人生)は間違ってなかったと知ることが出来たのだろうと考えると……やっぱりアイロニーが漂っている気が(苦笑)
入り込むというより、“自分の身に起こったら”を考えさせられる。好作品。
静かな映画
全体を通してすごく静かな映画。
ジョン・メイの真面目さがおもしろい序盤。
でも真面目すぎるあまり、仕事の効率が悪く、クビになってしまう。
そして最後の案件、ビリー・スタークの人生をたどる旅に出る。
身寄りのないまま葬儀が行われてしまった人の写真をアルバムに貼り、会ったこともないビリー・スタークに、自分が予約していた墓地を譲ってしまう。
どこまでも他人(死者)のために生きるジョン・メイの最後(最期)はあっけなく、悲しかった。
独りの人を弔ってきたメイもまた、独りで弔われたのか…。と少し驚いていたら、意外にもファンタジックな結末。
エディ・マーサンありきの映画だった。
粛々と生きる
民生係のジョン・メイの職務は孤独死した人を弔うこと。孤独死したということは、家族も友人もいなかったり、見捨てられてたりしてる人たちが多いということ。そんな見ず知らずの訳ありな人たちの弔いのためにそれぞれにふさわしいBGMを選んだり、弔辞を書いたり、写真を見つけ出してアルバムを作ったり…と職務以上のことにも取り組んでいくジョン。
几帳面で実直すぎるほどの人格は、時に笑いさえもひきおこす。(それが伏線にもなるのだけれど…)
ジョン自身も家族もない孤独な人間であるということが、そういう職務に粛々と取り組ませる所以だろうか?
上司の「死者に思いなど存在しない」という言葉に抗い、必要以上に思い入れしてしまうことが災いして、ビリー・ストークというならず者の案件が最後の仕事となるのだが、彼の人生を紐解く旅にに懸けるジョンの誠意があまりにも熱意がこめられているもので、観ている者もつい惹きこまれて応援したくなってしまう。
そんな旅の中でジョンがいろんな人に出会うことで巻き起こる心の変化に、自分もクスッと笑えたり、切なく思えたり、いつの間にかジョンといっしょに旅をしてる気になってしまう。素朴なイギリスの街の風景やそこに暮らす人々や飲食物にも想いを馳せて…
ほのかに芽生えた孤独なジョンの恋心。そして実直さを失う瞬間。間もなく予想を裏切る形の衝撃的なラストを迎えるのだけれど、なんとも切なくて胸が締めつけられる。でもあの結末だからこそジョンを通して生きることの儚さ、喜びが一人一人の胸に深く刻まれることになったと思う。
原題の『Still Life』もさることながら、配給会社の社名が「Bitter End」とは秀逸すぎますね⁉︎
奇しくも同時期に上映されている邦画の『悼む人』の坂築静人の悼む旅とも重なり、自分自身の死生観についてもいろいろ考えさせられるきっかけになりました。
納得したくない
物語は淡々と進むが、そこで語られる主人公ジョン・メイの
人間に対する優しさ、わずかな可能性に賭けたいとする願望、
仕事への静かな情熱、その一方で彼自身も彼が弔ってきた人々を
彷彿とさせるプライベートを送る姿・・・。それらを
最初はそれほど気にせずに見ていましたが、中盤で上司から
解雇を告げられてからは、先ほどのシーンと現在進行形の
仕事ぶりを重ね合わせてあまりにも悲しくやるせない気持ちに
自分が支配されました。解雇されても役所からの推薦状があれば
良い職に就けると言われても納得できるものではありません。
そして、彼は最後の仕事を見事にやり遂げました。これまでは
単なる可能性だったものが、現実のものとなったにも関わらず
彼はその場にいることが出来ないなんて!!
もしかしたら、あったかもしれない、いやあったであろう
主人公ジョン・メイの第二の人生をどうしてくれるのかと、
葬儀や墓所のシーンがいくつも出てくる映画だからこそ
思い至ったのでしょうが、私はまさに神なんてクソッタレだ!
あるいはやはりそんな存在は居やしないに違いない!
そう思わずにはいられませんでした。最後に自分が弔ってきた
人たちに迎えられるからといって、私には許せない。
彼の仕事ぶりはまさに聖人ではないか、無私の、奉仕の精神
なのに。利益にはならない、効率も悪いかもしれない、
でも人には感謝され、感動を与えることができる事に黙々と
取組、真の価値を見出すことができる人は決して多くはない。
彼ジョン・メイはまさにその一人です。そんな彼が人並みの
幸せを垣間見た瞬間に正に夢のように断ち切られることを
許容することが私にはできない。
かようにジョン・メイに感情移入しまくりの自分ですが、
同時に、もしもジョン・メイのこれからがハッピーなもので
映画が終わったなら、わざわざこうして映画の感想を残そうなどと
考えただろうか、という気もしてしまいます。
人の心を打つのは、残るのはハッピーエンドよりもむしろ少し
アンハッピーなエンディングのストーリーであるという現実。
納得できないし、したくない。
そんな思いに支配されて沈む自分がいました。
本当は5つ星を付けたいのですが、納得できない自分がいるので、
4.5星とさせていただきました。
ちと前評判が高すぎかな
別にこの展開にしなくてもよかったのではないかなー。特に必要な展開だったとも思えないし。急に陳腐になってしまうような……
全27件中、21~27件目を表示