「みおくりびと」おみおくりの作法 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
みおくりびと
孤独死した人を一人弔う民生係の男を通して生と死を見つめた、イギリス製ヒューマン・ドラマ。
日本では口コミで評判が広がり、今年を代表するミニシアターのヒット作に。
昨年の「チョコレートドーナツ」と言い、中身スカスカのメジャー会社の大作だけじゃなく、ちゃんとこういう作品もヒットする事に安心する。
「生きる」「おくりびと」、今年の「悼む人」など、邦画にも生死を真摯に見つめた名作・秀作があり、何の抵抗も無く見れる。
淡々とした語り口、しみじみとした作風も日本人には馴染み易い筈。
文化や民生のシステムなど国は違えど、人の生死への向き合い方は万国共通。
実直で几帳面、真面目を絵に描いたような主人公、ジョン・メイ。
目立たないけど、コツコツやるべき事を行う人物が、映画の中でも実際の世界でも好きだ。
イギリスの実力派、エディ・マーサンが好演。
丁寧な仕事ぶりに、亡くなった人への温もりと敬意を感じさせる。
彼が扱うのは、先にも挙げた通り孤独死した人たち。
誰に知られる事無くこの世を去っても、最期の最期に彼のように寄り添ってくれる人が居て、変な言い方だが、救われる。
社会はいつだって理不尽。
人員整理で突然クビを言い渡される。
身寄りの無い故人から彼を奪わないでくれ。
納得出来ずも、ジョンは最後の案件に取り組む。
奇しくもその故人は、ジョンの近所に住んでいた男。ビリー・ストーク。
近所に住んでいたにも関わらず、顔も知らず、一人亡くなっていた事にジョンは心を痛める。
と同時に、自分を重ねたのだろうか。
ジョンは中年の独り身。仕事上の付き合いはあっても友達と言える人も居なく、恋人も居ない。
今のままだと、自分が、これまで扱ってきた故人と同じ道筋を辿る事になる。
とても他人事と思えない。
生前のビリーを知る人を訪ね歩く旅で、ビリーはあまり全うな人物じゃない事が分かる。
それでも、友人は居たし、娘も居た。
陰のような人生の中の微かな光。
それはきっと、ジョンにも言える。
自分の人生にも、必ず光がある。
そして光のような出来事が。
ビリーの娘との出会い…。
それは呆気ないほどあまりにも唐突に。
見た人の間で賛否分かれる結末。
実を言うと見ていたら、こうなるんじゃないかと思っていた。
切なくも感じるし、温かくも感じる。
さながら、ハッピーなバッドエンド、バッドなハッピーエンドか。
ただ一つ言える事は、孤独な人生なんて絶対無い。
誰の人生にも愛があり、死を悼んでくれる人、見送ってくれる人が居る。