マンマ・ローマのレビュー・感想・評価
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息子は善人な『ラスコーリニコフ』
勿論、初めて見たが、
イタリアのリアリズモの伝統とは些か違うように感じた。
金貸し、娼婦、神父、殺人
この要素を全部含んだ実存主義文学はドストエフスキーの『罪と罰』じゃないか?
と感じた。息子は善良な『ラスコーリニコフ』で、
ネタバレ
になるが、
殺す代わりに殺される。高利貸しの老婆も自己犠牲にして、息子を守る母親。置かれた状況が『ラスコーリニコフ』と全く逆。
さて、なんでそんな事を仮定したかと言うと、ドストエフスキーー三島由紀夫氏ー澁澤龍彦氏の繋がりに気付いたから。
母性愛がなんとなく倒錯しているし、遠方に見える教会がシナゴーグ見たく見えるし、夜中に歩き回る母親は足をあらった様には見えない。しかも、美人局で得たお金で息子に媚を売る。
【”パゾリーニ監督、こんなヒューマンドラマも製作していたんだ!”売春婦として生きて来た母が、自分の息子だけには真っ当な道を歩ませたいという思いを描いた作品。】
ー パゾリーニ監督作品は若き頃に澁澤龍彦氏の著作に嵌った際に流れで、遺作になった「ソドムの市」を観たのみである。
そのあまりに過剰且つ非道且つサディスティックな内容に驚き、パゾリーニ監督はこういう人なんだと勝手に思っていた。
何しろ、「ソドムの市」製作終了後、パゾリーニ監督は暴行を受け、車に惹かれ轢死するという悲惨な最期を遂げている。犯人は、ソドムの市に出演した青年とされているが、いまだに真相は闇の中である。-
◆感想
・率直に言うと、今作は息子、エットレを想う母、マンマ・ローマの息子にはキチンとした人生を送って欲しいという明るさを纏いながらも只管なる切実さと、その思いに反してぐれて行く息子の姿が描かれており、正統的なヒューマン・ドラマである。
・言うなれば、ままならぬ人生の悲哀を見事に描いた作品だとも言える。
私の勝手なパゾリーニ監督のイメージが瓦解した作品である。
<今作の様な、ヒューマン・ドラマを製作したパゾリーニ監督は何故に晩年、「ソドムの市」を製作したのであろうか・・。
何故か、この作品を鑑賞して、パゾリーニ監督の善性を感じ、ホッとした気分なのである。
映画監督とは、何とも業の深い職業であると思った作品でもある。>
至福の映像
大好きな俳優、アンナ・マニャーニ。「アンナ・マニャーニは映画のために生まれてきた動物」と誰かが言った。映画監督はただその魅力をカメラに収めさえすれば良いと言うように、彼女の存在そのものが映画に生命の尊さを吹き込む。
堂々と歩きながら次々と相手を変えて「語る」長回しのシーン。
確実なことなんて何もない、アイデンティティなんて守れない、そういうことを感知しながら挫折や破局を決して恐れない。
アンナ・マニャーニは絶えず陽気に、能動的に、イタリアの悲観と人間の古典的社会の本質を語る。
ダンテの神曲からイタリアの宗教観を滲ませながら、パゾリーニはイタリア的なるものを見事に映像化して観せてくれた。
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