劇場公開日 2015年1月30日

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「災いに抗うのか、災いと共に生きるのか [修正]」エクソダス 神と王 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5災いに抗うのか、災いと共に生きるのか [修正]

2015年2月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

難しい

リドリー・スコット監督の最新作は、
旧約聖書における『出エジプト記(エクソダス)』の映画化。

自分はいちおう無神論者なので、宗教へ勧誘するつもりとかはサラサラ無いのだが、
鑑賞前には是非とも原典である『出エジプト記』に目を通しておくことをおすすめする。
映画に登場するパート(1~14節と20節あたり)は20数ページしか無いし、
本作の場合はあるていど話の流れを押さえていた方が興味深く鑑賞できると思う。
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だが物語に触れる前に、まず特筆すべきは映像。

古代エジプトの首都や奴隷街などの作り込まれた街並み、
殺伐としながらも雄大な荒野の風景など、隅から隅まで見応えありまくり。

序盤の戦闘シーンもいきなりクライマックス級。
激しく動く人馬をガリガリと捉えるカメラのド迫力!
重量感を感じさせつつもスピーディという素晴らしい出来だ。

圧巻はモーゼが奴隷達を率いてから終幕まで。モーゼの背後いっぱいに拡がる人の群れを
捉えたショットや、ラムセス率いる師団の危険な崖越えにはハッとさせられるし、
なにより有名な海を渡る場面のクライマックスの迫力にはあんぐりと口が開いてしまうほど。
CG全盛のこの時世、まだこんな言葉が頭に浮かぶとは思わなかった。『こんな映像観たことない』と。

巨大な波に呑み込まれる、小さな小さな小さな白い馬。
遂に対峙するモーゼとラムセスのショットの荘厳さ。
海に沈む人々を捉えたシーンのゾッとするほどの深度。

『ローアングルや遠近法の多用』などと書くと陳腐に聞こえるかもだが、
空間の捉え方を心得た人間が撮る事でスクリーンはかくも圧倒的な拡がりを持つものなのか?
もしあなたの近所にIMAX3Dを観られる劇場があるなら本作を見逃す手は無い。本作にはその価値がある。

ただ、原典である程度詳細に描かれている『十の災い』については、他シーンより映像的な面白みはやや薄い。
奇跡として知られる逸話の9割を現実に起こり得る事象として説明して見せた点は面白いのだが、
物語のテンポとしてここだけ駆け足な印象を受けた。あとこの辺り、かなりエグいシーンも多いので注意です。
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物語について。
原典が原典であるだけに大まかな流れや結末は変えられないが、
その中の差異にこそ作り手が描きたかったものがあると考える。

驚いたのはリドリー・スコットの映画で露骨に“神”が
登場する点だが、そこもやはりひと筋縄ではいかない。
神(か、その遣い)として登場するあの少年。
苛立ちや怒りの表情を見せる彼は、尊敬し崇拝すべき人格者と言うよりも、絶対的な
力を持っていながら自分本意に動くという、触れるも恐ろしい存在のように描かれている。

そもそも旧約聖書では、モーゼあるいは兄アロンが神から与えられた杖を使う事で『十の災い』
が起こるのだが、劇中ではこれらが完全にモーゼ達の手を離れた天災として描かれている。
劇中のモーゼは、神がエジプト王を屈服させる為に行った『十の災い』に対して不快感を露にしていた。
あまりに情け容赦ない所業に怒りと恐怖を抱いているのだ。

そしてエジプト王ラムセス。
出エジプト記はヘブライ人への迫害の歴史を描いたものであるが故、
エジプト王に対する敵意を感じ取れる箇所が節々にあると僕には思えるのだが、
この映画ではラムセスに対して同情的な視点も感じ取れる。
書き込み不足とは思うが、自分より人格に優れ、父にも愛されたモーゼへの愛憎入り雑じる感情は感じ取れるし、
権力に憑かれるあまり疑心暗鬼に陥り、誰もいない暗闇に向かって罵声を浴びせる姿が憐れ。
幼い息子に対して投げ掛けられる言葉(「お前は深い眠りにつく」)に込められた、二重の悲しみも忘れ難い。

神を畏れた男と、神に挑んだ男。
人智を越えた災いに人はどう向き合うのか。
世の理(ことわり)だと折り合いを付けて共に生きるか、それとも抗い続けるのか。
本作はそういう物語なのでは無いかと考えた次第。
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最後に、閉幕後に映し出されるメッセージについて。
前作『悪の法則』ではこのメッセージは無かったと記憶している。

ご存知の通り、過去に数多くの大作を手掛けてきたリドリー・スコット監督だが、
本作は今までの彼のフィルモグラフィ上でもテーマ・スケール共に最大級の、まさに渾身の大作。
それをあの人物に捧げるというだけで僕は、よく考えもまとまらない内に涙を流してしまった。

物語の最後、モーゼは神の無慈悲さを受け入れ、笑みを浮かべながら対話するに至った。
それをリドリー・スコット監督本人と重ねるのは、些か感傷的過ぎる見方というものだろうか。
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以上。
160分の長尺だが、開幕から閉幕までパワフルな物語と圧巻の映像で一気に観られる。
宗教的要素は強いが、個人的には従来のリドリー・スコット監督作と同様、
神という存在に対してドライな感覚を保ち続けている作品だとも感じる。
この超大作、是非とも劇場での鑑賞をお勧めします。

<2015.01.31鑑賞>
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余談:
『人類最初のアドベンチャー』という宣伝に違和感。
……これ、アドベンチャー? うーむ、そっちの方がお客は食い付くだろうけど、
なんか『アドベンチャー』という言葉は、本作を表す言葉としては軽すぎる。
『スペクタクル』とか『一大叙事詩』とかじゃダメすか。

浮遊きびなご