「家族の時間」6才のボクが、大人になるまで。 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
家族の時間
子ども目線で考えれば大事件の連続。離婚、再婚、引越…DVまで。
でも、そこをあえてドラマティックに仕立てない。淡々となにげない日常場面を紡ぎ合わせていく。ゲームの場面、食事の場面、喧嘩の場面…。
家族って、そういう日常の積み重ね。血のつながりだけじゃない。戸籍の問題だけじゃない。
そして、事件が起こっても日常は続いていく。環境の変化(環境への適応)や大事件は、その人の人格形成に影響を及ぼしつつ、日常の中に埋没していく。
メイソンSrが、離婚(大事件)されても子ども達と別れられずにつかず離れられずしながら、再婚して(環境の変化)、少しずつ大人になっていったように。
メイソンJrが、そんな環境の中、周りに壁を作ってしまいつつ、周りの人々の影響を受けて自分の足で歩み出していったように。
そういう積み重ねを丹念に紡ぎ合わせた映画。
日常を淡々と紡いでいるドキュメンタリー?。是枝監督の『誰も知らない』のように設定だけを決めて、役者に自由に振舞ってもらった画を編集したのかと思った。
でも、パンフレットを読むと、映画のスタート時に大筋はすでに出来上がっていて、毎年撮影の為に集まる時のミーティングで皆から出たアイディアとか、子どもの成長に合わせた変更を加えるけど、カメラが回っている時点ではしっかりと作り込まれた脚本に合わせて皆演技していたと言う。まったくのフィクションと知ってビックリ。タイムラグがあるなんて思えない!!!ずっと家族として暮らしていたかのよう。
主役・メイソンJr.を演じたコルトレーン君は、オーディションは受けたものの、最初は監督が手取り足取り演技の指示を受け、セリフも丸覚えしており、よく覚えていないという。けれど、12,3歳ころからずっと強く認識するようになり、俳優業を続け、2021年には主要な役を演じた映画が日本でも公開されている。
はじめは自ら演じたいと希望した、姉を演じた監督の娘は、途中で興味関心が変わり、「私の役、死んじゃだめ?」ということもあったとのことだが、それでも12年間撮りきる。
なんという映画なんだ。
ドラマの中で子役が成長していく様子を見られるのは、是枝監督もパンフレットの中で指摘しているように『北の国から』や『ハリポタシリーズ』があるが、12年を1本の映画にまとめたところが秀逸。この場面、あの場面といろいろと入れたくはならなかったのだろうか?
しかも、紡がれているのは日常場面の連続でありながら、家族に何が起こっているか、それぞれの心境・関係性の変化、そうなっていく過程を、説明的台詞なしで、まるでリアルな家族の会話のような必要最低限の台詞だけで、表現していく。
笑ったのが、後半のSrとJrの会話。「それで要点は?」「要点なんかないよ」そう、これこそ日常的に繰り返される妻と夫の会話(ここでは父と息子の会話だが)。ビジネスライクに要点を求める夫にキレる妻。日常会話・雑談に要点を求めてはいけない。雑談なしでは関係性は繋げない。そんな家族の風景までもが描き出される。
なんて練り込まれた脚本・演出・編集!!!
なんてこと考えなくても、
甥っ子の成長を見守っていくような。
自分の子ども時代を思い出して泣けてくるような。
こういう熟成された映画を観ると心が温まる。