イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所 : 映画評論・批評
2014年10月7日更新
2014年10月11日より新宿バルト9ほかにてロードショー
クロエがめずらしく、同世代が感情移入できる等身大のヒロイン役で涙を誘う!
「イフ・アイ・ステイ」はクロエ・グレース・モレッツのフィルモグラフィーからすると、少し異色の作品だ。これまでの彼女の役柄といえば、本人の愛らしいルックスに反して、幼い頃から父に殺人の訓練を受けてきた戦闘少女(キック・アス)、永遠に少女の姿のままさまよい続けるヴァンパイア(モールス)、抑圧された環境で超能力が目覚める少女(キャリー)といった異形の者ばかり。ブレイク作となった「キック・アス」のヒット・ガールのイメージのせいか、映画の中で彼女はいつも孤独で辛い青春をおくってきた。
今回の映画は違う。クロエが演じるミアはオレゴン州ポートランドに暮らす普通の女子高生だ。チェロが大好きで、ちょっと内気なところがあるが、親友がいて、彼女の夢を全力で支える家族がいる。ロック・バンドのボーカルとして地元では有名人の上級生、人気者のアダムが彼女を見初め、ミアは甘くてせつない初恋の通過儀礼を経験していく。
家族に守られ、初恋に戸惑い傷つき、夢を懸命に追う少女を主人公にした、「イフ・アイ・ステイ」のてらいのない作りは、いかにもプロデューサーのデニース・ディ・ノビの制作らしい。90年代にはウィノナ・ライダーとのコンビで知られていた彼女は、10代や20代の若手女優を主人公に少女マンガ的な映画を作ってきた。「ロイヤル・セブンティーン」「旅するジーンズと16歳の夏」「ラモーナのおきて」といったディ・ノビの作品で、女優たちはその年齢特有の健やかな魅力を発揮して、スクリーンで輝いた。クロエ・グレース・モレッツにも、そんな映画が1本必要だったのだ。いつもは近寄りがたいヒーロー的な存在の彼女が、ここでは同世代の感情移入を誘う等身大のヒロインを演じている。
しかし、クロエの行く道にはやはり試練がつきまとう。映画の中のミアは不慮の事故で家族を奪われ、本人も生死の境を漂っているという設定だ。昏睡状態から目をさませば胸が張り裂けるような現実が待っている。苦しみから逃れたかったら、生きることを手放すしかない。
病院のベッドに横たわるミアに寄り添う、祖父役のステイシー・キーチが泣かせる。彼がミアに呼びかけるシーンでは、試写会場のいたるところからすすり泣きが漏れた。彼が口にするいたわりの言葉は、今までの作品でクロエが演じる少女が決してかけてもらえなかったものだ。その事実が余計に涙を誘う。
(山崎まどか)