ミルカ : 映画評論・批評
2015年1月27日更新
2015年1月30日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
インド映画の粋が投入された新生マサラムービー
ミルカ・シンはインドの国民的英雄で“空飛ぶシク教徒”と呼ばれた実在の陸上選手。ミルカが頭の上で束ねてお団子状にした髪の毛をターバンで巻いているのはシク教への帰依の証なのだが、映画の起点もまさにそこ。1947年のインドとパキスタンの国土分断によって異教徒と見なされ、本来はパキスタン側に位置する故郷バンジャーブを追われたミルカが、どうやってインドへと渡り、アスリートとして大成したか!? その文字通り波瀾万丈の半生を一瞬の弛みもなく描いていく。
そう、弛んでいる暇なんて全くない。一旦は難民居住区で荷を解いたミルカが、そこで村一番の美女、ビーローに一目惚れして猛アタックする“ラブロマンス”、貨物列車に無賃乗車したミルカがホーボーとして頭角を現していく“アドベンチャー”、インド陸軍の陸上チームにスカウトされたミルカがインド代表選手から受けた差別を実力で跳ね返していく“復讐劇”、成功したミルカが幼い頃別れた唯一の家族である姉と再会する時の“涙”と、映画ファンが愛して止まないボリウッド改めマサラ(ミックススパイス)ムービーのフレイバーが終始刺激的なのだ。
お約束のダンスシークエンスも随所に。ビーローからラブレターの返事をもらったミルカが仲間と一緒にシェイクで喜びを表現し、メルボルン・オリンピックに遠征したインドチームがパブに繰り出してカントリーで盛り上がり、ミルカが因縁の対パキスタン400メートル走にエントリーする場面では、ヴァンゲリスのシンセサイザー@「炎のランナー」(81)も霞むパーカッションが鼓動する中、ミルカが踊るようにしてゴールを切る。
サウンドだけじゃない。ミルカの肉体から体脂肪が一気に消えていくトレーニングのプロセスを回転撮影で見せる特殊効果や、数々の陸上大会で記録を塗り替えていくミルカのゴールシーンをスプリットスクリーンにプラスしていく画面デザインも含めて、これはインド映画の粋が投入された新生マサラムービー。最近、巷を賑わせているインド映画らしからぬ洗練ともひと味違う娯楽経済大国の自信が、場面の端々から伝わってくる。
(清藤秀人)