「邦画の代表する作品ではないだろうか」くちびるに歌を しゅさんの映画レビュー(感想・評価)
邦画の代表する作品ではないだろうか
この映画は新垣結衣主演の美人ピアニストが、故郷長崎県・五島列島で中学校の音楽の臨時講師として赴任し、合唱部の生徒たちとの物語である。
個人的にすごいと感じた所と、好きな場面をいくつか紹介していきたい。
まず、この映画の魅力は「歌」である。
合唱部が全国を目指しコンクールに挑んでいくのだが、主題歌でもあるアンジェラアキの「手紙」が課題曲になっている。この歌詞と物語のストーリーが見事に重なり合っていく。
例えば「誰の言葉を信じ歩けばいいの〜」という部分は、女子生徒が母を亡くし、父に二度裏切られて、自分を見失い誰を信じていいのか分からなくなっている描写と重なる。
この歌と物語の絶妙な重なりが感動を生んでいた。
次にこの映画は様々な伏線を回収する。
主人公の新垣結衣は、音楽教師の代わりに入ってきたのにも関わらず、なぜかピアノを弾きたがらない。初めの方は、少し嫌がらせやプライドなのかと推測していたが、彼女は中学校から付き合っていた婚約者をコンサートに誘うが、その途中、交通事故で亡くなってしまう。その経験が、ピアノを弾かないのではなく、弾けないようにさせてしまっていた。この伏線の張り方が良い意味で邦画ぽくて、良かった。
もう一つは、汽笛の伏線。これもここで繋がるのかと驚いた。
次に個人的に好きなシーンだが、1番は男子生徒が女子生徒の父の悪口を言った友達に殴りかかった後に、2人で帰るシーンがあるのだが、女子生徒は多分心の中では「かばってくれてありがとう」と思っているはずだが、最後までありがとうという言葉を言わない。
これが思春期のリアルな関係を鮮明に表しているようで、とても良かった。
撮影地である五島列島の街並みも、この映画の清々しさを引き立たせてくれる。
ここまで長々と書いたが、この映画で感じた事は15歳には戻りたくても戻れないという事である。友人と喧嘩したり、好きな子の事が気になったり、親や先生と衝突したり、そんな粗くて力もないのに、なぜか自信はあって、未来がキラキラ光っていたあの頃が一番楽しかったと感じてしまう。
今そう感じるように、これから歳をとると「今」に戻りたいと思ってしまう。だから結局人にとって過去でもなく、未来でもなく、「今」が一番かけがえのないものであるのだと感じた。