グラスホッパー : インタビュー
40代にして満ちあふれる好奇心、若い世代を挑発する浅野忠信の「本気」
ベストセラー作家・伊坂幸太郎氏の人気作「グラスホッパー」が、「イキガミ」「脳男」の瀧本智行監督によって映画化された。仕組まれた事件によって妻を失った男の復しゅうと、殺し屋たちの思惑が絡み合うサスペンス・アクション。生田斗真、山田涼介(Hey! Say! JUMP)、麻生久美子、波瑠、菜々緒ら個性あふれる面々がそろうなか、殺し屋のひとりとして圧倒的な存在感を放つ浅野忠信に話を聞いた。(取材・文・写真/黒豆直樹)
「四十にして惑わず」というが、ウズウズ、ギラギラ、ワクワク……41歳の浅野忠信を見ていると、そんな擬態語が浮かんでくる。今作「グラスホッパー」でも20代の山田涼介、30代の生田斗真と正面から向き合い、時に若者たちの演技に気づかされ、学ぶ……そんなプロセスが「楽しくてたまらない」という。
伊坂幸太郎氏の人気小説を映画化した本作。浅野が演じたのは、自分が殺してきた者たちの亡霊に悩まされる殺し屋・鯨。死んだ恋人の復しゅうを誓う主人公・鈴木(生田)、ナイフ使いの若き殺し屋・蝉(山田)、そして鯨の3人を軸に、それぞれの思惑が互いを巻き込み、物語は加速していく。
ヤクザや殺人犯、殺し屋といった役柄は若い頃から幾度となく演じてきた。それでも浅野が本作に強くひかれたのは、鯨の持つ特異な力。直接手を下さずとも、目をじっと見つめれば相手はそのまま自殺してしまうという能力で、依頼された殺しを重ねていく。
「自殺させる殺し屋という設定は、聞いたことないし誰もやったことがない。それこそが自分にとって、この役をつかむ糸口でした。『何だか分からないけど面白い』って、自分にとってはすごく重要なことなんです。同時に『いける』とも思いました」
鯨という役が浅野に憑(つ)いたのか? それとも浅野が、鯨という男を飲み込み、変化を遂げたのか? 「言葉では言い表せない」という不思議な、だが確実にこれまでと違う心情の中で現場に立っていた。
「撮影時期の精神状態というのが、沸騰するような思いを抱えつつ、一方で、自分から何かをしたくない、作りたくないというあまのじゃくな状態で(笑)、監督や共演者に鯨という男を作ってもらおうとしていました。自分ではノープランで現場に行き、監督がいて、相手の役者がいてそこから何かが生まれていく。自分が作り込んだというより、ただその空気、雰囲気を離さないようにしていたという感じなんですが、非常に魅力的な役でしたから、そうやって鯨になりきっている時間が心地よかったです」
とはいえ、現場に立つことは、ただ心地よいだけでは済まされない。「鯨という役と出合ったことで何かを手に入れ、同時に何かを捨て去っている。自分の未熟さを思い知らされることもあった」とも。例えば、共演シーンの多かった山田とのやり取り。
「若さもあると思いますが、彼はものすごく動けるし、そこにきちんと自分の役を詰め込める。アクションをしながら、忘れずに自分の役と向き合っている。僕がアクションに一生懸命になっていてそこを忘れがちになっているのを如実に感じさせられました。そうやって次の自分の課題が生まれるし、それはものすごく楽しいことですね」
息子でもおかしくない年齢の若者からも貪欲に吸収する……いや、むしろこの年齢になったからこそ、若い世代を冷静に見つめられるようになったという。
「若い時は周りが見えないし、30代は少しビクビクしていたと思います(笑)、『ヤバい、若いやつらが出てきた』って。40代になって、ようやく向き合えるようになったんでしょうね」
だからといって“落ち着いた”わけではない。「僕は決してフレッシュではないです(笑)。でも、フレッシュでいなきゃいけない。それを“作る”のは面白いです」と、芝居の楽しさを口にする。
「そのためには自分の中でリミットを作らないことだと思います。やればやるほど、知らずにかたくなになっていってしまうものだけど、どこかでそれを全て取っ払っていかないといけない。映画の現場には『誰が決めたの?』というルールがあふれているけど、そんなのは本来関係ないんです。最初に映画が撮られた時、動く人を撮影することができるカメラが発明された時、そんな決まりごとはなかっただろうし、それは今も変わらないはずです。僕はそんなルールを信じてないし、モノマネで映画が撮れる時代だけど、そんなのは映画じゃないって思っていますから」
口先だけではない、オヤジたちの奮闘が本作でも垣間見える。村上淳が扮する蝉の雇い主・岩西と鯨の1対1の対決は原作の名シーンのひとつだが、浅野と村上、若い時から互いを知る同い年のふたりのやり取りは、映画ファンの胸を熱くさせる迫力に満ちている。
「やっている時はオッサンふたり、一生懸命でしたが(笑)、そう言っていただくと、やっぱり自分らの世代がまだまだ無茶苦茶な事をしないとって思いますね。僕は同じ世代の役者を誰よりも厳しい目で見ています。『お前がいい加減なことしたら、俺までそう見られる』って思うし、図々しいけど『俺がトップを走らずに誰が走るんだよ』とも思いながらやってきました。それは身を引き締めるためでもあるし、1番の仲間だからこそです。『俺たちの世代が1番だよな?』と思っていたいですから(笑)」
40代って楽しくて仕方ないぜ。浅野の背中は、そう言って若い世代を挑発しているようにも見える。