「主演2人の濃厚な怪演を堪能する作品。」毛皮のヴィーナス Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)
主演2人の濃厚な怪演を堪能する作品。
映画「おとなのけんか」のロマン・ポランスキー監督作品。
「おとなのけんか」は子供同士の喧嘩を発端に2組の夫婦が喧々諤々の討議をする話で。
舞台は片方の夫婦が住むアパートの一室。
男と女が味方に/敵にアッチコッチする不毛な議論を。
上映時間76分という非常にタイトな中に詰め込まれた遣り取りは最高でした。
本作。
本作の舞台は古びた芝居小屋の客席と舞台のみ。
更に登場人物はトマとワンダの2名のみ。
主演2人の熱演、いや怪演に圧倒されました。
ワンダを演じるエマニュエル・セニエ。
冒頭の登場場面では粗野な印象をガチッと植え付け、演技画面での劇的な変化で魅せる。
熟れて半ば崩れかけた肉体が醸し出す雰囲気も相まって強烈な個性が。
演技の場面でも繰り返される緩急に応じてスイッチがカチッカチッと切替わり、その表現力の高さに圧倒されました。
対するトマを演じるマチュー・アマルリック。
冒頭の強気な表情/態度から徐々に情けなさが増してくる。
その屈辱と被虐の悦びが混在する表情。
その表情にハッとさせられ異常な雰囲気に呑み込まれます。
かと言って重苦しい雰囲気ではなく何処か滑稽。
真面目にやっているが故の、心の奥底に隠された本性が露わになったが故の可笑しさ。
放られた携帯電話に反射的に手を伸ばす情けなさには思わず笑いました。
話自体も演者の演技力を楽しむ構成。
トマが脚色した「毛皮のヴィーナス」の脚本をトマとワンダで本読みする。
そして随所に差し込まれる作品に対する両者の討議。
現実の世界と演劇の世界を行ったり来たりする内に、その境界線が段々と曖昧になっていく。
境界線の行き来が繰り返されるため演者の演技力の高さをより楽しめる。
話の内容云々は別として演技力を楽しむ構成には好感が持てました。
惜しむらくは上映時間96分。
固定的な設定の中で話への集中力が持続するか懸念がありましたが。
昨今の作品と比べて短い部類ではありますが…それでも冗長感が。
「おとなのけんか」同様に70分台であれば疾走感があって楽しめた気がします。
主演2人の濃厚な怪演を堪能する本作。
終盤の展開は好みが分かれる所。
確かに序盤から端々で前振りはしていた気がしますが。
あまりの展開に圧倒を通り越して呆気にとられ。
「ナンジャ、ソリャ」と思わず口から漏れ、若干の置いてけ掘感を感じつつ劇場を後にしました。
その置いてけ堀感も含めて濃ゆい作品でした。
オススメです。