ニューヨークの巴里夫(パリジャン) : 映画評論・批評
2014年12月2日更新
2014年12月6日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
ダメ人生のカオスが楽しい、青春三部作の最終章
我らがグザヴィエは、期待を裏切らなかった。スペインでの留学生活を描いた「スパニッシュ・アパートメント」(02)、30歳の迷走を描いた「ロシアン・ドールズ」(05)に次ぐ、セドリック・クラピッシュ監督のグザヴィエ・シリーズ第3弾(ちなみに原題を英語にすると、難問を意味する「チャイニーズ・パズル」)。2作目を観たとき、きっと中年になってもグザヴィエはぐだぐだなんだろうな、と誰もが予想したその通りに、40歳になった彼はカオスの中にいる。
いつも旅の始まりとともに大きくうねりをあげるグザヴィエの人生は、今度はニューヨークへと向かう。10年間、幸せな結婚生活を送ってきたウェンディがアメリカ人の恋人を作り、2人の子どもを連れてニューヨークへ行ってしまったからだ。そこに、留学時代からのレズビアンの親友、イザベルや元カノのマルティーヌがかかわってくる。女たちに翻弄され、ダメ人生に悩み、異国でのトラブルとサバイバルに四苦八苦。相変わらずだ。しかし、ひとつだけ変わったところがある。彼が父親である、ということだ。
ウェンディに去られてもさほどダメージを受けないグザヴィエだが、子どもたちは別。子どもたちのため、チャイナタウンに住みついた彼は中国系アメリカ人女性と偽装結婚までするハメになる。しかもイザベルの子作りにまで協力させられ、いまや3児の父だ。グザヴィエ役のロマン・デュリスが意外に老けておらず、受難の顔芸がますます冴えて楽しいのだが、“父親”としての顔がときに、非常にせつない。ただ色恋に明け暮れていた青春時代とは、人生の重みが違うのだ。とはいえ重たい映画になっているわけではなく、軽妙さは健在。もちろん前2作を観ていなくても鑑賞に問題はないが、観ていた方が何倍も楽しめることは言うまでもない。とくに、1作目の“あの事件”があのキャラによって繰り返されるくだり!
青春三部作の終わり方としても、満足のいくエンディング。だが、シリーズはこれで本当に終わりだろうか? トリュフォーのアントワーヌ・ドワネルものは5本あるではないか。さらに年を重ねたグザヴィエに、いつかまた会いたい。
(若林ゆり)