「政治が信じられないこの国で、観るべき秀作!」天空の蜂 年間100本を劇場で観るシネオさんの映画レビュー(感想・評価)
政治が信じられないこの国で、観るべき秀作!
最近の邦画は、
TVや漫画の焼き直しが多いせいか、
本の甘いのが多い。
封切りを早くしたいがために、
詰めきれないのかな。
そんなカンジで
邦画に裏切り続けられていたので、
今作はとても良かったなぁ。
とにかく原作が、秀悦!
綿密に練りこまれて、スリリング。
「日本のいちばん長い日」もそうだけど、
原作小説が骨太だと、
スクリーンに飲み込まれてしまう。
題材は、原発。
そんなタブーとされてきたモチーフに、
作家はもちろん、
スタッフもキャストも配給会社も、
挑戦しているのが素晴らしい。
登場人物が多いのだけど、
さすがの東野圭吾。
各々が背負った背景を、
確実に絡みとっていく。
親子の絆に、
子供のイジメに、
原発地民の悲哀に、
原発開発側の葛藤に
政府の隠蔽気質。
原発に対する様々なストーリーが
折り重なって、
8時間のドラマが転がっていく、
そしてリアリティを積み上げて、
驚愕のラストに向かっていく。
キャストも
見事に原作に答えていた。
原発の設計士
三島を演じる本木さんは、
過去の事件を背負った
抑えたミステリアスさから、
ラストまでのコントラストが
実に鮮やかだった。
テロ犯の綾野くんもいい!
この人は抑えた演技が、
本当に雰囲気あるなぁ。
本木さんと綾野くんは、
邦画界では出過ぎだけどね(笑)
新開発ヘリ「ビッグB」の設計者
湯原役の江口さんは、
ちょっとワザとらしくて、
リアリティに欠けてしまった。
それも脚本のセリフが、
いちいち嘘っぽい犠牲者なんだけど。
向井理さんのちょい役は、
この映画を前向きに終わらせるのに、
とても重要な役割だった。
監督は
壮大で複雑なストーリーを、
よく2時間強にまとめきってくれたね。
伏線の張り方も、実にわかりやすい。
前作イニシエーションラブも良かったけど、
彼が持つ独特の世界観と絶妙な演出が、
観客をいい意味で裏切っている。
アクションもVFXも
まぁまぁよく出来ていた。
ただ脚本はもう少しだった。
小説では成立していても、
映画のシーンでは滑稽になっちゃう
言い回しって多い。
そこはしっかり計算して欲しかったなぁ。
20年前に書かれた原作だけど、
フクイチの事故がなければ、
今でも「原発の危険の可能性」を描くことは、
できなかっただろう。
そういう意味では
非常に皮肉な運命を感じるけど、
今の日本が創るべき邦画の秀作だ。
ラストシーンでは、
原作にはない監督のメッセージが
こころに響く。
日本の政治が信じられない
こんな時代に、
ぜひ観ておいた方がいい。