「本質的には何も解決していないところが生々しい」百円の恋 ELEVENさんの映画レビュー(感想・評価)
本質的には何も解決していないところが生々しい
一見ダメ人間が努力して真人間になる、という分かりやすい王道的サクセスストーリーだが、全編を通して言えるのは何も解決していないということ。厳密には成長しているし進化しているけど、最後クズ元彼についていってしまうあたり、本質的には何も変わっていない。
年齢的にももうジムは試合を組んでくれないし、後日談があるとすれば、ジム通いもロードワークもやめ、まただらしない体つきに戻った主人公がいそうだ。
そして一度は復縁した元彼にはまた裏切られる未来が想像できる。
主人公と家族の関係は良好になり、元彼は心を入れ替えて真人間になってずっと隣にいて、ストイックにボクシングを続けていつかは試合に勝てる……そんな後日談はおよそありえないだろうという雰囲気が漂っている映画だ。
登場人物も問題アリな人ばかりだし。
個人的には元彼(新井浩文)の人物像が嫌すぎた。根っからの嫌な奴という感じで人間味を感じない。
試合後の主人公の元に現れて、ほんのわずかな優しさを見せた男の腹にボディーブローを食らわすくらいのオチを期待していたが、「そういう映画じゃない」んだなと思った。
なので内容のシンプルさと分かりやすいサクセスストーリーなのに観た後のさわやかさというのはあまり感じられなかった。
撮影期間が分からないが、ブクブクの体型からスタートして贅肉が削げ落ちていく、という経過を見せつける安藤サクラの役者魂はすごいと思った。女性の方が筋肉が付きにくく脂肪が落ちづらいというし。
シュッとしたところから撮影開始して、ブクブク体重を増やして冒頭のシーンを撮るという方法もあるだろうが、それはそれでものすごいプロ根性だと思うし。
なので安藤サクラのすごさを楽しむ以外の見どころはあまりないなと感じた。