「大阪の街」味園ユニバース よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
大阪の街
渋谷すばるがいい。歌ももちろんいいし、感情の抑制が効いたいい演技になっている。謎めいていて、狂気と優しさと悲しさがその瞳に宿されている。ジャニーズのアイドルが出演ということで期待はしていなかったのだが、良い意味でそれは裏切られた。
大阪という街はよそから来た人間から見ると、首をかしげたくなるほどうら寂れた光景が延々と続いていたり、どのような人々が集まるのかよく分からない歓楽街のカオスが広がったりしている。
この大阪の特殊性は、大阪に生まれ育った人間には分からない。彼らにとっての都市とは子供のころから見てきた大阪に他ならないからである。
そして、観光や商用で少しばかり立ち寄った人間にもこれは分からないだろう。観光客やビジネスマンは大阪のそうした場所を訪れることはないからである。
他所から大阪にやって来て、しばらくよそ者として暮すと見えてくるのは、日本有数の都市であるにもかかわらず大阪の街が纏っている寂しさと、そこにいる人々のばかばかしさとまともに対峙する姿である。
山下敦弘監督も、母校の大阪芸術大学に在学中このような思いで大阪を見ていたのだろうか。
大阪の街の画は「泥の河」平成版とも呼べそうな情景だ。
金にも名誉にもならない歌謡ショーのバンドに血道を上げる「おっさん」たち。そのおっさんたちのマネジメントを完璧にやり遂げようとする少女。彼らは誰かに認められたくて懸命なのではない。「アホくさい」のは百も承知で、「おもろい」から真剣にやっているのだ。
自分の年齢もわきまえずに歌手になりたいと子供に真剣に話すポチ男の父に対する想い。その父を嫌う姉への恨み。このへんの心理をもう少し丹念に追ったほうが、関ジャニファンの観客には親切だったかも知れないし、ポチ男の孤独がよりリアリティをもって迫ってきたかも知れない。