劇場公開日 2016年4月23日

「人は望まれてこそヒーローになる」アイアムアヒーロー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人は望まれてこそヒーローになる

2016年5月18日
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鑑賞方法:映画館

笑える

怖い

興奮

皆さん、日本産のゾンビ映画がやりましたよ。
“世界三大ファンタスティック映画祭”すべてで主要部門受賞という快挙ですよ。
あ、そう聞いて「すごーい、そんな感動作なんだ~」と思った方は注意。
これらの映画祭が扱うのはホラー・SF等のいわゆる“ジャンル映画”ばかり。
つまりは、ホラー映画としてのクオリティやエンタメ性が評価されたということ。
まあね、脳ミソ飛び出す感動作ってのはなかなか聞かんよね。

で、僕が実際に観て感じたのは……
「おいおい、このクオリティとスケールの
パニックホラーを、邦画がやってのけたのかよ!!」という衝撃。
それに個人的には本作、脳ミソは飛び出すけどけっこう感動できましてよ。
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国内外にかかわらず、特殊効果やアクション演出がチープに見えるゾンビ映画って多い。
だがこの映画はどうだ? そのどちらでもチープさを感じさせない。

まずはゾンビ映画的なヴァイオレンス描写についてだが、
本作の場合は「これ、R15指定でいいの!?」と呆気に取られるほど。
だって、腕やら脚やらポポポポーンの脳味噌パッカーンのナシ汁ブッシャーですよ。
序盤の“歯”とか陸上選手の凹んだ○とか、ひいいいぃやあああぁ……ってなる。

それにね、こんな恐ろしい形相と動きのゾンビ、世界的にもなかなか居らんと思います。
速いわエグいわ怖いわの三拍子。
顔のパーツは微妙に歪み、眼球もぐるんとあらぬ方向を向いている。
だが見た目以上に、人間だった頃の言動をぶつぶつ繰り返す様がこの上なく不気味。
(傑作ホラーゲーム『SIREN』の“屍人”を思い出した。監督……再映画化してみる気はないかね……)
片瀬那奈のZQNの動きなんてゾンビ映画史に残るインパクトだよマジで。
まあ彼女のインパクトが強烈過ぎて、他のZQNが大人しく見えちゃうんだけど。

アクション演出もグッド!
漫画家のアパートを出て住宅街から都市部へと移動するまでの序盤のシークエンスは、
パニックが身内にじわじわ浸透してきて最後に爆発するまでのボルテージの上げ具合が素晴らしい!

クライマックスも、超邦画級にウルトラヴァイオレント
であることに加え、アクションの緩急の付け方が絶妙!
ひたすら銃弾を装填し続けるヒデオを延々と捉えるシーンは、
彼がどんどん疲労してる感覚が伝わってきてハラハラしてしまうし、
ラスボス的ZQNの恐ろしさと、ここぞとばかりの決めのカットには背筋ゾクゾク。
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だが、見所が特殊効果やアクションだけならここまで面白くはならなかったろう。
この映画が素晴らしいのは、主人公の成長譚として物語もしっかり練られている点。

僕は原作未読だが、原作ファンの友人によると、映画版は結構な省略・改編が入っているとか。
だが知らない身からすれば違和感はほとんど感じず、かえってスピーディで退屈を感じなかった位。
むしろ、サブキャラや感染源などにまでいたずらに話を拡げず、
主人公の成長譚を描く事に潔く的を絞ったおかげで、
“ヒデオ”が“英雄”になるまでのカタルシスをズドンと感じられた。

「自分は英雄(ヒーロー)だ」と名乗った所で、人はヒーローにはなれない。
ヒーローであるかどうかは自分以外の人間が決めることだから。
最後の最後まで自分をヒーローだと信じてくれた人の為に、
ヒデオはなけなしの勇気を奮い、命を懸けた。
誰かの為に死ぬ気で闘う覚悟を認められて、初めてその人は誰かのヒーローとなる。
それまで「“英雄”と書いてヒデオです」と自己紹介していた彼が、
あの時「ただのヒデオです」と語ったのは、きっとそういうことだと思う。

それに、サブキャラだって十分魅力的だ。
有村架純や長澤まさみ等のキャラの背景は殆ど語られないが、どんな想いで
生き延びてきたか察することができる作りなのであまり気にならない。
だいたい、長澤まさみ、登場シーンから何からすげーカッコいいじゃない。煙草も似合うし。
有村架純も、後半殆ど喋らないけど、すげー可愛いじゃない。重要な場面での台詞や目の表情が良い。
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いちおう不満点。
前述だが、一部のZQNが強烈過ぎて、その他大勢が従来のゾンビと変わり映えしないように見えた点。
もうひとつ。ショッピングモールや生存者のリーダーの設定等、
中盤の流れはゾンビ映画においては割とステレオタイプといえるもの。
前半と終盤が鮮烈なだけに気になったし、物語的にもやや停滞感も覚えた。
だがその点も、シンプルかつ強固なストーリーのお陰でそんなに気にならず。
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ここんとこ4.5判定ばっか付けてるので迷ったが……この映画はそれくらい付けても良い気がする。
佐藤信介監督は『GANTZ』で日本のVFXアクションの水準を一段階押し上げた方だと僕は思っているが、
今回の作品で、邦画エンタメ大作を観る際のハードルは更に高くなるんじゃないかしら。
以上! 度肝を抜かれる出来でした。

<2016.04.23鑑賞>
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長い余談:
ZQNの語源であろうDQN(ドキュン)という言葉は
実はつい1,2年前に初めて知ったのだけど、これは
『とんでもなく非常識、あるいは態度が悪かったり反社会的な人間』
を指すネットスラング(=インターネット上での蔑称)だとか。

ということは、本作のZQNというのはかつてジョージ・A・ロメロが『THE DAWN OF THE DEAD』で大量消費社会の到来により“物質”に依存するようになってしまった現代人を虚ろに歩くゾンビという形態で表現したのと同様にZQNとは無気力に無目的に生き続ける事の苛立ちを他者にぶつけて解消しようとする現代の人々の利己性や暴力性を表現した存在なのであろうと解釈したがたぶん単純にゾンビエンタメやりたかっただけでこれ考え過ぎだと思いますハイ。

浮遊きびなご