「大いなる力には、大いなる責任が伴う。 日米の宣伝の差は内容以上に興味深いかも。」ベイマックス たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
大いなる力には、大いなる責任が伴う。 日米の宣伝の差は内容以上に興味深いかも。
14歳の天才少年・ヒロと彼の兄が作った介護ケアロボット・ベイマックスを中心としたスーパーヒーローチーム、「ビッグ・ヒーロー・シックス」の活躍を描いたアメコミヒーロー・アニメーション。
「ビッグ・ヒーロー・シックス」のメンバーであるフレッドの父親の声を演じているのは『スパイダーマン』シリーズや「MCU」シリーズの、アメコミ界の巨人スタン・リー。
第87回 アカデミー賞において、長編アニメ映画賞を受賞!
ベースとなっているのはアメコミ界の二大巨頭の一つであるマーベル・コミックが1998年に発表した「ビッグ・ヒーロー・シックス」という作品。
ご存知の通り、2009年にディズニーはマーベルを買収しており、本作はディズニー×マーベルによる初のアニメ映画化作品となっている。
この「ビッグ・ヒーロー・シックス」というコミックは本国アメリカでも全くの無名であり、監督であるドン・ホールとクリス・ウィリアムズが映画化に適した原作を探している時にたまたま巡りあった作品なのだとか。
主要キャラクター名と「ビッグ・ヒーロー・シックス」というチーム名はこのコミックを踏襲しているが、それ以外の設定やキャラクターのビジュアルはほとんどが映画オリジナル。コミック版のベイマックスの見た目にはビックリすること間違いなし。これもうロボットですら無くない!?
天才クリエイター、ジョン・ラセターがスタジオを率いていた時代のディズニーアニメはどれも名作揃いだが、本作も御多分に洩れず。
細かい点ではうーん…と思うこともあるが、全体としてはめちゃくちゃクオリティの高い娯楽作品であり、頭からお尻まで退屈しない。オフビートなギャグの切れ味も鋭く、誰が観ても楽しめるであろう多幸感に溢れたアニメーションに仕上がっている。
同じマーベル作品である「スパイダーマン」や「X-MEN」、「アイアンマン」などの影響が大きいことは言うまでも無いが、「攻殻機動隊」や「AKIRA」、「戦隊シリーズ」や「ドラえもん」など、日本のアニメや特撮からも強く影響を受けているのであろうことは想像に難く無い。
舞台となる架空都市「サンフランソウキョウ」の街並みは、日本というよりかは中華街に近い感じもするけれど、製作陣の強い日本愛を感じるユニークかつオリジナリティに溢れたものになっている。
こういう街に住みたい!と強く思わせてくれる都市を現出することに成功している、もうこれだけで”街映画”としては大成功だと言って良いだろう。
ただ、サンフランソウキョウの街並みに楽しさが溢れているが故、もう少しこの街をしっかりと見せて欲しかったという気持ちにはなる。意外と街の中をウロウロしたりする描写が少ないんですよね。街中を爆走するカーチェイスも夜中だったし…。
「キングダム ハーツⅢ」(2019)というテレビゲームではこのサンフランソウキョウを歩き回る事が出来、その街並みのワクワク感に感動した。ゲームと比較するのも酷だが、もう少し街に入り込む感覚は欲しかったかな。
日本からの影響は何もルックだけに限ったことでは無い。感覚的なことなので説明しづらいが、アニメーションの組み立て方やキャラクターの配置に、ジャパニメーションの影響を強く感じる。
「仲間たちとチームを組んで悪と戦う天才少年」という設定はいかにも少年漫画って感じだし、何より「日常に奇妙な生き物(ロボット)が割り込んでくる」という展開がめっちゃ日本のアニメっぽい。
ベイマックスや女性キャラクターには”kawaii”や”Moe”の要素が詰め込まれているし、とにかく日本人に飲み込みやすいアニメーションになっているように思う。…ゴー・ゴーちゃんカワイイペロペロ😋
物語は超王道のスーパーヒーロー誕生譚と「ドラえもん」的な少年とロボットの心の交流を描いたハートフルストーリーのちゃんぽん。
食い合わせが悪いようにも思えるこの2つのジャンルを上手く混ぜ合わせ、しかもわずか2時間弱でそれを見事に描き切っている。この手際の良さは驚異的ですらある。
ただ、2つのジャンルに手を出したことで描かなくてはならない物事が増えてしまい、結果として一つ一つの要素が薄味になっている。また、進行の手際が良すぎることにより物語の流れに作業っぽさが生まれてしまっている気がする。
例えば、ヒロが怒りによりダークサイドに落ちてしまうところなんか、あまりにも手際が良すぎて正気に戻るまでに5分くらいしかかかっておらず、観やすいんだけどちょっと味気のなさを感じてしまう。
また、実は悪役だった教授やイーロン・マスク的な実業家のオッさんなどの人物描写も薄いので、クライマックスの展開にハラハラするようなドラマが生まれていない。
元も子もない事を言うようだが、ビッグ・ヒーロー・シックス結成譚というのはボツにして、ヒロとベイマックスの2人にのみ焦点を当てた物語にした方が、脇役たちのドラマも描けて作品に厚みが出たのかも。
とまぁグダグダ言ってきましたが、エンタメとしてはこの上ない作品であると思います。観て損なし。
むしろ作品内容よりも気になるのは、日米の宣伝の差。
日本の予告編では『STAND BY ME ドラえもん』(2014)を彷彿とさせる”ドラ泣き”ならぬ”ベイ泣き”映画として宣伝しているが、アメリカの予告編だとロボットアクションアニメとしての側面が強く押し出されている。
ヒーローアクション映画とハートフル映画、確かにこの映画は2つの側面を持っているのでどちらの予告編も嘘ではないのだが、国が違うと同じ作品でもここまで切り取るポイントが違うのかとびっくり仰天しちゃいました。
エンディングテーマも、オリジナル版はフォール・アウト・ボーイで日本版はAIの「Story」ですからね。なんだこの差はっ!∑(゚Д゚)
本作の日本での興行収入は90億円以上。これはピクサー作品を除くと、ディズニーアニメとしては『アナ雪』シリーズに次ぐ記録となっています。
ここまでの売上を記録したのは、ベイ泣きの側面を強く押し出した予告編の功績によるところが大きいのでしょう。前々から思っていたけど、日本人って泣ける=良い映画だと思い込んでますよね。泣けるという事以外にも映画の良さはあると思うのだけど…。まぁ別にいいんだけどさ。
最後に一つ。
今作にはカワイイキャラクターが色々と登場するんだけど、その中でも間違いなくキャスおばさんがNo.1!カワイくてしかもなんかエロい💕
本作と言いMCU版『スパイダーマン』シリーズといい、近年のマーベル作品に登場する主人公の育ての親のおばさんは何故かみんなエロかわいい。これ絶対マーベル社内にそういう性癖の人がいるよね…。まぁ私もそういうの嫌いじゃないから大歓迎なんだけどさ!👍