劇場公開日 2015年6月13日

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「晴れ、時々、やっかいな、四姉妹」海街diary ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5晴れ、時々、やっかいな、四姉妹

2015年6月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

まるで小津映画を観ているんじゃないか? と錯覚するほど、タッチが似ていますね。人物と室内、その時空間をスライスし、まるでスライドショーのように並べます。カットとカットのツナギには「動くこと」「アクション」の連続性が、敢えてないように、注意深く編集されています。
このあたり、黒澤映画なら、一つのアクションを受けて、次のアクションがあり、それがまた第三のアクションにつながってゆく、という一連のダイナミックな「うねり」、映画文法があるのですが、それとは対極にある作品、と言ってもいいと思います。だから、パッと見は、そっけない、盛り上がりがない作品と思ってしまうかもしれない。
また、やたらと、葬式のシーン、法事のシーンなど、辛気臭いシーンが多い作品でもあります。
このお話の舞台は鎌倉。海辺の街に暮らす姉妹のお話。
娘たちと別れ、再婚して、別の街に暮らしていた父親が亡くなります。その知らせを受けた三姉妹は、父親が移り住んだ山形へ向かいます。父親の葬儀の時、三姉妹は腹違いの妹、すず(広瀬すず)と出会いました。姉たちは、この末っ子が気に入りました。鎌倉の家で四姉妹として、一緒に暮らそうよ、ということになります。
離婚して、姉妹たちを放り出し、家を出て行った母親(大竹しのぶ)は、わがまま勝手で、まるで子供のようです。久しぶりに、鎌倉の家で法事の席に現れたと思ったら「こんな古い家、もう売っちゃおうよ」などと唐突に言い始めます。
それを聞いた長女、幸(綾瀬はるか)
「母親らしいこともしたことがないくせに、何を言い出すの!」と怒りをあらわにします。
看護師をしている自分が、今まで母親代わりで、この海辺の古い家を守り、そして妹たちを育ててきました。
しっかり者の長女も、やはり一人の女性です。勤務先の医師、椎名(堤真一)と付き合っています。
新しく姉妹に加わった「すず」は、この海辺の家に来た時、長女、幸につぶやいたことがあります。
「ダメだよね、私のお母さん。奥さんがいる人を好きになるって……」
長女、幸は交際相手の椎名が住む部屋に通っています。実は彼には別居中の奥さんがいる。もうすぐ別れるのかなぁ~。もうすでに自分が、事実上の奥さんであるかのように、振る舞ってしまう幸。そんな自分自身が、いいのか、悪いのか、よく分からない。
ダメだよね。結婚している人を好きになるなんて。
すずの漏らした言葉が胸を刺します。
やがて幸は終末ケアの部署へ行って見る気はないか、と上司から打診されます。
次女佳乃(長澤まさみ)は勤めている銀行の営業として、新たに外回りの仕事に配属されます。
三女、千佳はマイペースで、姉妹の中で一番の変わり者。スポーツ洋品店に勤めています。父と別れたのは、彼女がまだ小さかった時。父との触れ合いを一番知らない千佳。ふと、末っ子のすずにたずねてみます。
「おとうさんって、どんな人だった?」
鎌倉の姉妹が小さな頃から馴染みにしている定食屋さん「海猫食堂」、それを切り盛りする店主のおばちゃん(風吹ジュン)は、病気のため、店を畳むことになりました。ここの名物「鯵フライ」の美味しさは誰が引き継ぐのか?
丁寧に、何の関係もなく、ぱらり、ぱらりと、散りばめられてゆく、それぞれのエピソード。
それらのなにげない伏線が、物語の終盤、全てが神の配剤のように結びついてきます。
そして、ここにも出没してきたか!と思わせる、リリー・フランキーの気負わない自然体の存在感。
今時、こんな小津映画を彷彿とさせる地味な演出手法。映画作品として、これは成り立つのかな? と心配するほどですが、それを補うのがキャスティングですね。
是枝裕和監督作品では、これまで、監督にしか引き出せない、子役の自然な演技、演出術や、「そして父になる」では、福山雅治をキャスティングするなど、ある種、どの作品にも「飛び道具」あるいは「目玉商品」的な存在がありました。
本作では今までの是枝作品の中で、最高に華やかな「飛び道具」「目玉商品」を取り揃えたと言えるでしょう。
綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、という、豪華で贅沢な女優陣が、一見地味なストーリーを華やかなスクリーンに変えてくれます。
ラストシーン、海辺を歩く四姉妹。ワンシーンワンカットの美しいロングショットが印象的でありました。

ユキト@アマミヤ