「だから何?的作品。」海街diary 三遊亭大ピンチさんの映画レビュー(感想・評価)
だから何?的作品。
「海街diary」見ました。
是枝裕和監督の前作「そして父になる」は本当に大好きだし傑作だと思っている当方、もちろん今作にも期待。原作は未見、あらすじも全く知らずの鑑賞。
結論から言いますと、期待以上ではなかったが、一定の面白さもある。スゲー深い話を期待していたので物足りない。
是枝裕和節が炸裂している本作、一番感じたのは終わりきる前に次のカットに移る編集。風吹ジュンとリリフラさんの花見でもしようか〜の下りも、長澤まさみと広瀬すずのマニキュア横浜行った時に買ったって下りも、余韻がないと言いますか。これがいいのか悪いのかはよく分からないけど、ズバッと切られてスゴく不思議な感覚でした。でもどちらかと言うと、もう少し表情とか仕草とか見たかったな〜と思う面も無いワケでははなかった。
会話も仕草も自然な感じは相変わらず良かった。家ん中が女だらけだとこんな感じなのかな〜的に見てました。ただし、何個か入ってるセクシーショットみたいなのは断じていらないですよ。観客は別にそんなの求めてないですしね。一言ネタも満載でしたね。一番ツボに入ったのは、夏帆がカレー作りをしてて広瀬すずが洗濯物を干すところ。広瀬すずがブラジャーを手にとって「大きいな〜」って言います。この一言かなり深くはないですか?この一言にはいろんな意味が込められている気がして、是枝裕和監督の悪戯心も感じつつ感心した。
鎌倉〜江ノ島の描写も嬉しい!僕は神奈川県民なので鎌倉江ノ島大好きです。海、山、生しらす、海岸へ降りる丸い石階段、鵠沼海岸駅前のセブンイレブンのチラ見せ。どれもファンには堪らないし、この街を語る上では欠かさない要素。特にセブンイレブンが映った時はガッツポーズをしてしまいましたね。
あとは役者が全て素晴らしい。それこそ全員主役級と言っても差し支えない大物が広瀬すずの周りを囲っている。その中で堂々とやり切った広瀬すずには、将来間違いなく大物女優になるなという確信を得た。中盤かそこらの何回忌かのシーンで、長澤•綾瀬•夏帆•希林•風吹+広瀬すずがワンショットで収まる場面がある。その6ショットはもちろん豪華絢爛だけど、全く動じない広瀬すずの姿には驚愕した。間違いない女優。各ポジションにイイ男が配されてる点も。そのどれもが超が付くほどの贅沢使い。堤真一、加瀬亮、レキシ(イイ男)、鈴木亮平、リリフラさんの全員がかっこいいんだよね。是枝監督の過去作だと素人臭い子役が印象的だけど、今作はそれはありませんでしたね。恐らく、このストーリーをやるにはガッチリと役者を固めないと成立しないと考えたのでしょうか。今作の四姉妹が駆け出し女優で演じられたら、退屈で見ていられなかったと思います。女優周りだと夏帆さんは扱いが空気そのもので、あまりに不憫ですよね。二ノ宮さん葬式後の姉妹四人が海岸の所で歩き話をしてて夏帆が「わたしにも聞いてよ〜」っておどけるけど、これは夏帆さん自身の心情吐露とも取れる。せっかくしっかり者の長女と、イケイケな次女がいるんだから、その2人に引け目を感じてて途中で爆発みたいな設定にしても良かったはず。というかそのぐらいにしないと、全く彼女がいる意味がないように感じた。
で、いろいろ良かった点を言ったけど、この映画の肝の部分は何も具体的な解決を見せてくれないのは残念すぎますよね。予告でもゴリ押ししてた「奥さんが居る人を好きになるなんて、お父さん良くないよね。」と「あなたたちの家族を壊した人の娘さんなんだからね。」の2つのセリフに関して。四人の娘がそれぞれ葛藤を抱えているのは分かるけど、どうやってそれを乗り越えて四姉妹として生きていくのかの理屈が抜けてますよね。要は、最初はよそよそしく同居→そして徐々に仲良くなり→そこからは何も起きずなんですよ。ラストも特にあがらないし。すべてを曖昧にしている。
「そして父になる」のラストは、ある程度あの家族が向かう方向を示してくれてるから、こちらもそれを各自想像しながら余韻に浸れたけど、今作は「このまま普通にみんなで生活するのか〜」以上の事を受け取る事が出来ないワケですよ。
画面に映る全ての人が異常なほどの良い人で、全く悪い人が出てこないという特異な作りの今作において、あのラストが限界かつベストなのかもしれないとも思うので複雑です。
総じて、普通に面白くは見れた。普通に。普通というのは、もう一回見たいとか誰かに勧めたいとまでは思えないという事かな。ぶっちゃけ是枝作品=傑作みたいな風潮が世間的にあると感じるし、それが今作を高評価に導いたと思います。話のテーマや根底が深いだけで面白すぎてヤバいみたいな事はないです。