「心地よい映画」海街diary IvoryK2さんの映画レビュー(感想・評価)
心地よい映画
ひとつひとつの場面に、是枝監督の丁寧さと誠実さを感じる映画
どの場面を切り取っても、美しく、心地よく、構成全体に大切な役割を果たしている。
山場なし、事件なしの、淡々とした4姉妹の日常が描かれて、長女幸のすずへの言葉「すずはここに居ていいんだよ。ずっと」がキイワードになっている映画だと思う。
「ここに居ていいんだよ。ずっと」
居場所というものは、必死に努力して確保していくものではなく、与えられるものなのだろう。
すずは、ありがたいことに、拘りがない・・・かのように見える3人の「お姉さん」たちに居場所を与えられた。
父親の葬儀を終えて、3姉妹が電車に乗り込む場面がある。電車に乗り込み3人が揃ってすずに笑顔を送る。すずは、3人の「お姉さんたち」を見上げる。
そのところで、妙な実感があった。
しらす御飯を食べようとするすず。しらす御飯を始めて食べる(実は始めてではなかった)すずをのぞき込み、「おいしい」というすずの言葉に満面の笑顔になる3人のお姉さんたち
このところも妙な実感があった。
映画を視終えて3日ほどして、「ああ、そうか」と思った。
従妹の3姉妹を思い出たのだった。
末っ子はわたしより1歳上で、よく一緒に遊んだから一番仲が良かった。
2番目のお姉さんはとても美人だったがあまり記憶がない。
一番上のお姉さんは大学がわたしの家の近くだったのでよく泊まりに来て一緒に遊んでくれた。
トランプをしながら、「プリーズ」という英語の意味を教えてくれた。
お姉さんたちは、わたしの知らない世界を一杯知っていると思われる、不思議な、憧れの存在だった。
田舎にあるお姉さんたちの家に遊びに行くと、お姉さんたちは精一杯の笑顔で付き合ってくれた。
「すずも、そんな気持ちでお姉さんたちを見ていたのだろうか」と思った。
映画中の人々は、どの人も見ごたえがあった。是枝監督はキャスティングの天才だと思う。
キャスティングを終えた時点で、映画の勝負はほぼ決まっていたのかも知れない。
長女の綾瀬はるかは、背筋のピンとはった演技をする。3人姉妹も、実は、居場所を失ったことがあるのだと観客に分からせる。
二女の長瀬あゆみは、お姉さんたちは女であることを意識させる。
三女の夏帆は独自のスタンス(距離と雰囲気)を保ちながら末っ子の運命である「小さなカウンセラー」を演じる。映画では長女と二女に目が行きがちだが、夏帆に注目して映画を視返すと、その演技力に驚く。すごい女優さんだと思う。