「両親が女性の交際に与える影響」海街diary MAPLEさんの映画レビュー(感想・評価)
両親が女性の交際に与える影響
随分昔に不倫して出て行った父親が亡くなり、出て行った後に父親が築いた家庭で産まれた腹違いの妹は既に母親も亡くしているため、父親が連れ子同士再婚した継母しか身寄りがなくなり、姉三人と一緒に暮らす事になるという話。姉三人の母親も、父親の不倫が原因で早くに出て行って、北海道で新たな暮らしをしている。勝手で生活にだらしない感じが全面に出た母親。
家庭のごたごたの記憶がハッキリあり、母親を慰めたり、両親が出て行った後は妹2人を背負ってきた、長女の張り詰めた生き方が泣ける。仕事でも家庭でも困った人は放っておけず、しっかり向き合い信頼される存在。ところが、歴史は繰り返し、不倫の餌食になっている。
次女は長女と反対に、向き合うより逃避して精神を軽く保つタイプで、もう少し姉のサポートをしろよと言いたくなるくらいがさつで奔放だが、華もあり仕事には真面目なタイプにも関わらず、こちらもまたヒモ男に引っかかっていた。
三女は家庭のいざこざの頃、幼かったため、精神にもたらす影響は薄く見え、気の良いタイプだが、姉に育てられたようなものだからか、所作や好みなどから、躾が行き届いていない事が伺える。男性の好みも少し人と違う感じで、個性的な頼りない男とうまくいっている。
更に、両親とはどちらとも死別の末っ子すずは、まっすぐ社交的に見えるが、継母との家庭も経験しているためか、順応性が異常に高い。母親が既婚者から奪った家庭で産まれた自分の存在を肯定して良いのか苦しんでいる。
家庭が精神や人生に強く影響し、多くは繰り返してしまう事を、深く感じさせられた。女の子の場合、信頼する男性の質まで変わり、無意識に大切にされない方を選択してしまう。
個人的には、次女と三女には全く感情移入できなかった一方、長女とすずの性格や思考回路は台詞になくとも痛いほどよくわかり、泣かされた。つい自分の感情は引っ込めて後回しにして、多くを背負ってしまうところが長女と末っ子でとても良く似ている。作品には出てこない父親だが、この2人が最も父親に近いのではないかと推測できた。また、母親は三姉妹の母親よりもすずの母親の方が魅力的だったのではと推測でき、だからこそすずは、姉三人に父母の話をよりしづらいのではと感じた。自分が幸せであればあるほど、罪悪感を感じてしまう。
そして、人生で3人の女性と家庭を築いた父親は、家庭が変わっても、好きな景色や釣りの趣味や、しらすトーストなど前の家庭までの事も引き続き取り入れていた様子が、異母姉妹が出会ったおかげで明らかになっていく。家庭は守らなかったが、優しい人だったのだろう。
風吹ジュンとリリーフランキーが家庭の変化を長年見守り4姉妹それぞれを理解していて、とても温かかった。良い人ほど早く死んでしまうって本当なんだろうなと思った。
是枝作品は家族の奥深さを淡々と、心の機微を精緻に描いていて、とても好き。綾瀬はるかも広瀬すずも、良い役を得ていた印象。長澤まさみの演技がもう少し良ければ、次女の人物像ももっと引き立ったのかな?と少し思った。
見慣れた景色がたくさん出てきて、自分の幼い頃や青春の想い出が、溢れるほど記憶に蘇った。