「自分の居場所が今ここにある幸せ」海街diary 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の居場所が今ここにある幸せ
是枝監督の作品を観ていつも不思議に思うのは、
「どうやってこんな生き生きとした表情を撮れるのだろ?』という点。
で、役者さんが生き生きして見える映画ってのは、
映画そのものが生き生きして見えるようで好き。
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主人公三姉妹と、その腹違いの妹であるすず。
彼女らが少しずつ打ち解けていき、“四姉妹”と
なっていくまでが穏やかに細やかに描かれる。
他のレビュアーさんも書かれている通り、現実味が薄れて
しまいそうなほどの超絶美人姉妹が主人公な訳だが(笑)、
映画では言葉遣いや些細な所作、
目配せひとつの変化までもが繊細に切り取られていて、
ぼんやり映画を観ている時など、彼女らが役者ではなく
しばしば本当の姉妹だと錯覚してしまうほどだった。
綾瀬はるかはホンワカしたイメージが強いので
しっかり者の長女役のはまり具合にちょっとビックリ。
奔放な次女・長澤まさみもマイペースな三女・夏帆も快活で良かった。
このところ人気急上昇中の広瀬すずもグッド。
独りの時や打ち解けた人といる時のカラッとした笑顔と、
相手に気兼ねしている時のやや感情を押し殺した表情。
一言、巧い。
特に心を動かされたのは、山の上で長女と一緒に大声を上げる終盤のシーン。
それまで僕は「姉妹の父はどんな人間だったのだろう」
ということばかり気にしながら映画を観ていた。
あのシーンまで、すずが自分の母の話を
殆ど口にしていなかった事に気付いてもいなかった。
口にしたのも一言、母の行いを謝罪するような言葉だけ。
大好きだった母を悪く言われるのが怖くて、
皆の前では母のことをずっと口に出来なかったのだろう。
自分の大事な人を恥じ続けなければいけない気持ち
というのは、一体どれほどに苦しいものなのだろう。
そんな苦しさから解放されたあの場面でようやく彼女は、
自分が姉妹の一員でいること、あの街で生きることを、
自分自身に許すことが出来たのだと思う。
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四姉妹以外では、大竹しのぶ演じる母親が流石の演技。
どんなモンスターペアレントが飛び出てくるか戦々恐々だったが(爆)、
娘たちや亡夫への複雑な想いを抱えて自ら距離を置いている、説得力ある役。
「家を売りたい」という身勝手に思えた言動も、
四姉妹にとって大事な家も(そして観客にとって魅力的な場所も)、
彼女には苦い記憶の詰まった場所でしか無かったのだと、後の場面で気付かされる。
不仲だった長女と母が少しだけお互いを理解して別れる所も優しい。
梅酒をじっくりと味わって飲む母の様子が浮かぶよう。
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と言うかねえ、出てる役者さんがひとり残らず良い!
まるで姉妹の母親のような優しい雰囲気の風吹ジュン、
ふんわりした笑顔に想いを滲ませるリリー・フランキー、
神様よりもカッコいい銀行員・加瀬亮、
短い出番ながらもすずへの冷めた想いが垣間見える中村優子、
ダメ男で優男・きっと姉妹の父はこんな人だったのかもと思わせる堤真一、
毎度ながら、話すことすべてが真実に聞こえてしまう樹木希林(笑)。
みなさん魅力的でした。
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この映画は、自分の居場所に関する映画なのだろう。
中学卒業以来、かれこれ15年以上も故郷から離れた土地で暮らす僕としては思う。
気を許せる家族が、友人が、そして土地が目の前にある。
ここにいてもいいんだよ、と言ってくれる人がいる。
自分らしい自分を受け入れてもらえて、皆と屈託なく笑うことが出来る。
それって本当に、本当に幸せなことだ。
けれど幸せな日々というのは永遠ではなくて、
滞りなくつつがなく続いていきそうな日常も、
少しずつだが変化していってしまう。
大事な人はいつか去ってゆき、他人も自分も
昔のままではいられなくなっていく。
だから、
このささやかな幸せを受け取れる日々を噛み締めなければ。
日記に綴るように、ひとつひとつを大事に心に留めていかなければ。
そんな事を思わせる映画。
<2015.06.30鑑賞>
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余談:
役者さんについてもう少しだけ。
子ども漫才コンビ“まえだまえだ”の前田旺志郎くんが良い。
是枝監督作品には『奇跡』に続き2回目の出演だが、最初は彼だと気付かなかった。
そういや『ソロモンの偽証』に出演してた兄さんもなかなか良かった記憶。
良い監督さんに会えたからというのもあるだろうが、
二人とももうコンビ名を出さなくても良いかもしれないねえ。